そのうえで、「2016年度上期はランサムウェア(身代金要求型ウイルス)の脅威が急速に広がったことから、セキュリティ対策に追われたところがある。ただ、セキュリティ対策だけで終わってしまうのではなく、それを機に顧客ニーズを丁寧に聞き取れば、複合提案につなげることができる。こうした柔軟な対応を今後もっと強化していきたい」と語った。冒頭の発言は、このコメントのエッセンスである。
つまりは、喫緊のニーズが高いセキュリティ対策を“突破口”に個々の顧客との取引を広げていこうというもので、数多くの製品・サービスを手掛ける大塚商会ならではの発想といえる。だが、こうした“機を見て敏なる対応”はどの企業にも当てはまるところがあるだろう。
「クラウド事業は6四半期前から黒字で推移している」 (IIJ 勝栄二郎 代表取締役社長)

IIJの勝栄二郎 代表取締役社長
インターネットイニシアティブ(IIJ)が先ごろ、2016年度第1四半期(2016年4~6月)の決算を発表した。勝氏の冒頭の発言は、発表会見の質疑応答で、クラウド事業の収益状況について聞いた筆者の質問に対して答えたものである。
IIJのクラウド事業における2016年度第1四半期の売上高は38億円で、前年同期比14.1%増と好調に推移した。同期の全売上高361億8000万円(前年同期比15.0%増)に占める割合はまだ1割あまりだが、同社では成長事業の1つと位置付けている。2016年度通年でのクラウド事業の売上高は、前年度比15.0%増の162億円を見込んでいる。
同社のクラウド事業が好調に推移しているのは、2015年11月に提供開始したクラウドサービス「IIJ GIOインフラストラクチャーP2」(以下、IIJ GIO P2)が本格的に寄与する形になってきたからだ。勝氏によると、「IIJ GIO P2は6月末時点で約600件の引き合いがあり、月額数千万円から1億円を超える大口案件も具体化している」という。
同社はかねてクラウドサービスとして、オンラインで手軽に導入できる「IIJ GIOホスティングパッケージサービス」と、多様なITリソースを組み合わせてシステムを構成できるオーダーメイド型の「IIJ GIOコンポーネントサービス」を提供してきた。
IIJ GIO P2はこの2つのサービスを進化させ、より信頼性・処理性能を高めたパブリッククラウドと、オンライン申し込みで即時利用を可能にしたプライベートクラウドを1つに融合したサービスとして仕立て上げたものだ。端的にいえば、クラウド市場で今、最も注目を集めているホステッドプライベートクラウドサービスである。
同社のクラウド事業に関する実績を表すキーとなる数字については、図を参照していただきたい。ちなみに、図の左下には顧客数の推移や顧客の月額規模別の社数まで記されている。筆者が知る限り、自社のクラウドサービスの内容についてここまで公開しているのはIIJだけだ。これは情報開示の観点から大いに評価したい。

IIJのクラウド事業に関する実績の推移(出典:IIJの資料)
さらに、会見の質疑応答でクラウド事業の収益状況について聞いたところ、勝氏は「これまで相当な投資をしてきているが、収益については2014年度第4四半期から黒字で推移しており、2016年度第1四半期では1億円近い利益を上げている」と語った。
勝氏は2015年度(2016年3月期)の決算を発表した5月の会見で、「IIJは企業向けクラウド基盤サービス市場で5年後に国内トップシェアを目指す」と宣言した。つまりは、ホステッドプライベートクラウドサービスで国内トップシェアを目指すということだ。IIJの勝算は、この領域にフォーカスしているところにあると推察できる。果たして思惑通りになるか。注目しておきたい。