これらの強化されたコアとデータをやり取りするキャッシュがより大容量化されるとともに、高速化されたという点もパフォーマンスに影響を与える重要な変更だ。Zenの各コアには64KバイトのL1命令キャッシュと32KバイトのL1データキャッシュ、512KバイトのL2キャッシュ、2MバイトのL3キャッシュが搭載されている。AMDによると、L1キャッシュとL2キャッシュの帯域幅は2倍に、L3キャッシュの帯域幅は最大5倍になっているという。
Zenでは、まったく新たなチップ設計の採用を機に、電源管理機能の向上も図られている。これには、リーク電流の少ないFinFET構造のトランジスタを用いたより先進的なプロセスが大きく役立っているものの、新たな設計によってダイ上の周波数と消費電力もより細かく制御できるようになっている。
より高次のレベルで見た場合、Zenプロセッサは複数のモジュールにまとめられており、それぞれに4つのコアと合計8MバイトのL3キャッシュが搭載されている。コンピュータモジュールはCPUとメモリコントローラ、IOをつなぐプロプライエタリなファブリックを介して互いに通信するとのことだが、AMDは現在のところあまり多くを語っていない(おそらくは2012年に3億3400万ドルで買収したSeaMicroのファブリックを活用しているのだろう)。
最初の製品となる「Summit Ridge」プロセッサは、こういった4コアのモジュールを2つ搭載し、合計で8つの物理コア(16スレッド)と、16MバイトのL3キャッシュを搭載することになる。この製品は、エンスージアスト向けデスクトップを対象にした現行の「FX」シリーズのCPUを置き換えるものとなる。さらにこの製品に続いて、最大32コア(64スレッド)を搭載したサーバプロセッサ「Naples」が登場する予定であり、これによりAMDはメインストリームとなっている2ソケットサーバ市場に返り咲こうとしている。
ZenはGLOBALFOUNDRIESのFinFET構造のトランジスタを採用した14nmプロセスで大きく飛躍するのは間違いないが、軌道に乗るまでにどれだけの時間を要するのかについては意識しておく必要がある。AMDのデスクトップ向け製品である現行のFXプロセッサは、「Piledriver」マイクロアーキテクチャに基づく「Vishera」プラットフォームという4年前に市場に投入された製品であり、32nm製造プロセスはBulldozerマイクロアーキテクチャに基づく初代の「Zambezi」というさらに古い製品にまでさかのぼる(ちなみにIntel初の32nmプロセス製品である「Sandy Bridge」プロセッサは2011年1月に市場に投入されている)。
Zenは素晴らしい成果であるとはいえ、Hot Chips 28の発表ではいくつかの大きな疑問点が残されている。
1つ目の疑問は、どれだけ早く軌道に乗るのかだ。AMDの公式ロードマップでは、Summit Ridgeは依然として2016年の製品とされているものの、現実的に見た場合、Zenマイクロアーキテクチャを搭載した最初の製品は2017年の第1四半期まで発売されないだろう。また、デスクトップ向けのFXシリーズは大々的に売り出されているが、AMDの未来にとって重要なのは他の製品であることにほぼ間違いはない。実際、Naplesの発売タイミングとそのパフォーマンスによって、エンタープライズ向けサーバ分野のシェアという点で光を失いつつあるAMDが再び力を取り戻すかどうかが決まるはずだ。さらに、Zenマイクロアーキテクチャを採用したCPUコアと同じダイ上に「Radeon」GPUを搭載した同社のAPUは、公式のロードマップに記載されてすらいない。その代わりに同社は、「Excavator」コアを最大4つ搭載した「Bristol Ridge」という中継ぎ製品を「A10」と「A12」、FXというブランド名で近々投入しようとしている。これらAPUはデスクトップ分野とノートPC分野という大きな市場を見据えたものであるため、14nmとZenマイクロアーキテクチャへのタイムリーなシフトが鍵となるだろう。