社員の家族、顧客、協力会社にも説明
SCSKは働き方改革の目的について、社員の家族やユーザー企業、協力会社に説明し、理解を求めた。とくに、協力会社にしわ寄せがいくようなら、改革は成功とはいえない。協力会社の社員が長時間残業を強いられているようなら、発注方法を「時間ではなく、成果物」などへ変えることも検討するという。
長時間労働の是正など働き方改革は、無駄を省くことにもなる。たとえば、不採算プロジェクトが減った。「現場からトラブルの発生の報告が一早くあがるようになり、火消しを素早く投入できた」(小林理事)からだ。それが営業利益率にも表れており、2011年度の6.3%から2015年度に9.8%に高まる。
このほか、「因果関係は分らないが、メンタルによる休職者も減った」(小林理事)し、離職率も2%に下がったという。残業が減っても、給与が減らないよう削減分を社員に還元した。その1つは、月34時間あるいは20時間の見なし残業代を支払うこと。
働き方改革を推進した中井戸氏が2016年6月、取締役を退いた。「課題は今の状態を維持すること。社員も元に戻りたくないだろう。周りからも、働くやすい会社とみられている」(小林理事)。
そこで、取り組み姿勢を改めて社内外にアピールするため、就業規則に社員が健康を維持する「健康経営」の章を2015年10月に盛り込んだ。朝食を毎日食べたのか、毎日1万歩歩いたのか、休肝日を2日設けたのか、禁煙できたのかなど、健康的な生活習慣を勧めるのは、社員の健康と幸せが事業発展の礎になるからだという。経営トップの変革への強い決意は、社員にも伝わっているという。
次なる課題は、新しいビジネスの創出だろう。人月ビジネスはとうに終わり、サービスモデルへの転換が急がれる。新しい経営陣がどんなことを考えているのか、次の一手に注目している。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。