--企業ITにどう使っていくかというところについて、もう少し具体的に。分散データベースの代わりや、金融機関での契約ソフトウェアの代わりになりうると言われていますが、どのような考えでしょうか。
McLean氏:まず、「Hyperledgerプロジェクト」のロードマップ上では2017年3月にバージョン1をリリースすることを目指していて、今はバージョン0.6の段階です。これまで実際にプロジェクトを行ってきたお客様には、金融機関、サプライチェーン、IBM Global Financing(IGF)などがあります。
IGFというのはグローバル・ファイナンシングの業務部門です。ここでは年間400億ドルくらいのお金を動かしているのですが、お金が届かない、規約の内容と違うといった紛争が起こると、その解決のために労力と40日程度の時間がかかってしまいます。取り引きの流動性が落ちキャッシュフローの問題もあるので、ファイナンス会社としては致命的です。それを解決するために、IGFはブロックチェーンを使って、取り引きの全体を可視化し、紛争が起きたときに内容が瞬時にわかる仕組みを提供しています。
これまでは、特に金融のお客様がブロックチェーンについての関心を強く持っていましたが、現在はリテール、製薬、航空業界など、どの業界の顧客にも、適用したいという方が数多くいらっしゃいます。
--ブロックチェーンは金融業界での実証実験が進んでいます。
O’Dowd氏:ビジネスネットワークがあった方がブロックチェーンに向いているので、自社のためだけに作られている銀行の基幹システムには、本来はブロックチェーンは必要ありません。ただ、銀行にはいろいろな取引先があるので、ビジネスネットワークが存在する部分で使える可能性があります。例えば、A銀行とB銀行で同じブロックチェーンを使っていれば、取り引きの際に同じシステムが同時に更新されるので、コストも安くなり、速度も早くなるというようなことです。
McLean氏:繰り返しになりますが、今ブロックチェーンを使われているお客様の目的は、既存のシステムに、より強固なガバナンスを持たせたいというケースが中心です。特に、決済の取引時間が短縮できること、仲介で入ってくる業者や人のコストも削減できること、標準化を設けるスピードが速くなること、リアルタイムで処理されているので、サーバプランニングが妨げられないことが利点として挙げられます。
--ブロックチェーンについてIBMの展望を教えてください。
McLean氏:長年のキャリアでいろいろな経験をしてきましたが、ブロックチェーンは産業界などに大きな影響をもたらすであろう技術で、そこに面白さを感じています。IBMとして非常に投資している分野であり、この技術を扱いながら産業別の事業を強化していこうとしている状況です。
先日スイスで開催されたイベントでも最高経営責任者(CEO)のGinni Romettyが、基調講演の中でブロックチェーンを特に強調していました。日本IBMに関しては、ブロックチェーンへの取り組みは世界的に見ても先行しています。具体的には三菱東京UFJ銀行とのブロックチェーンを利用した電子契約書の実用化などの例があります。