Intelの最高経営責任者(CEO)Brian Krzanich氏は、Mobileyeを153億ドルで買収すると発表した際、「自動車の自律性が高まり、マッピング処理や、学習やアルゴリズムの改善に対する要求が大きくなるにつれて、必要な接続性の水準は高くなり、データセンターやクラウドコンピューティングで処理されるデータも増える」と述べた。
「車輪のついたデータセンター」は、インテルが自動運転車について言及するたびに繰り返し語られているテーマだ。Intelにとって、自動車とMobileyeのコンピュータビジョン技術は、同社のIoT(モノのインターネット)戦略の中で極めて重要な位置にある。自動運転車を実現するには、クラウドで大量のコンピューティングが必要になるが、クラウドはPC市場でそうであったように、Intelの「成分ブランド」となっている分野だ。
Intelが説明するMobileye買収の理由は筋が通っているが、今回の買収は防衛的な性格も持っている。同社にとっての懸念は、自動車やエッジデバイスにARMベースのプロセッサが普及すれば、NVIDIAやQualcommなどの企業に、実入りのいいデータセンター市場やクラウド市場を侵食される可能性があることだ。NVIDIAはすでに、GPUによってデータセンターやハイパフォーマンスコンピューティング分野への進出を果たしている。Qualcommは自動車産業進出への足がかりとして「NXP」の買収を発表しており、先日はARMベースの「Windows Server」も話題になった。
自動車から自宅、町、クラウド、データセンターまでを包含するスタックが1つの連続体になるというKrzanich氏の指摘は正しい。分からないのは、その利益がどう分配されるかだ。
IntelのMobileye買収を防衛的なものだと捉えているアナリストは少なくない。JefferiesのアナリストMark Lipacis氏は、調査レポートで次のように述べている。
IntelのMobileyeに関する発表を評価する上では、同社が最近Altera、Nervana、Movidiusを買収しているのに加え(買収費用の総額は当社の推計で162億ドル)、メモリ生産設備に対する投資の増額計画を発表していることを考慮に入れる必要がある。同時に、同社のデータセンター事業グループの売上成長率は、最近になって10%台半ばから8%に縮小しており、さらにデータセンターにおける深層学習ソリューションの選択肢として、NVIDIAの並列コンピューティングプラットフォームが台頭してきている。IntelのM&Aに対する現金投資額と、データセンター事業の成長率の減速は、データセンターでのプロセッシング市場において、Intelのx86プロセッシングが持つ優位が崩れ始めているのではないかと懸念させる材料となっている。
この見方は、やや行きすぎかもしれない。ただ、Intelのデータセンター市場における優位が揺るいでいないとは言え、クラウドプロバイダーがARMなどの別の選択肢を求めていることは明らかだ。例えばIBMのOpenPOWERグループは、データセンター市場におけるIntelのシェアを奪おうとする強力な製品ラインアップを持っている。