RPAはコンセプトが分かりやすいため、業務部門など日常的にビジネストランザクションを処理しているような人から見ると、適用可能な個所がいくつも挙げられる。
小さな業務領域を自動化し、徐々に広げていくというアプローチが可能な点はまさしくRPAの利点のひとつであり、その趣旨からすると実際に業務を遂行する担当者が挙げる「機械的な作業」はスタートポイントを模索する上で非常に有効な情報と言える。
しかしながら、そのスタートポイントに集中する余り、最初に選定した「小さな業務領域」で終わると、現場の従業員が、自らシステムやソフトウェアの開発・構築や運用・管理に携わる「エンドユーザー・コンピューティング」(EUC)の域から踏み出すことができず、一般的なライセンスなどの価格帯からすると高い買い物となるケースが多いのではないだろうか。
では、トライアル実施後、次のステップに移った事例を紹介しよう。この企業(仮にA社とする)では他社同様、小さな業務領域にロボットを導入し、広い範囲を含めた適用可能性に関して評価した。
選んだ業務は受注管理である。経理財務や人事は本社で集中して担っているケースもよく見受けられるが、営業事務の領域に足をかける受注管理は各拠点に散らばっているケースが多い。
A社も例外ではなく、グループ各社で個別の組織を持ち、バラバラのやり方で受注管理している。数年前にグループ統一システムを導入した関係で同じ基幹システムを使ってはいるが、各社の要件を受け入れる形でカスタマイズされており、使い方もバラバラだった。
A社グループで最初にRPAを導入したのは子会社の一つで、本社ではない。この子会社がトライアルの結果をもって本社に働きかけ、グループ全体の取り組みへと発展した。
A社では、トライアルで導入したロボットをそのまま本番稼働させて受注業務で使用していた。2016年に約2か月間実施したトライアルに続き、数か月間はA社に閉じた本番運用だったが、この1月からグループ会社全体への展開がプロジェクトとして始まった。
A社が実現しようとしているのは、グループ会社間の業務の標準化、集約化、およびノーショア化(業務をデジタル化したレイヤに配置すること)である。
2017年上半期の本稼働に向けてプロジェクトが進行中のため詳細な数字は開示できないが、初期評価での効率化効果の試算は受注業務で約2割減、この業務プロセスのグループ会社4社間の標準化、ロボット改修、後続となる請求業務の標準化、新規ロボット構築……を含め、初期評価の約2.5倍のコストで12倍以上のトランザクションに対応するプラットフォームを目指す。
ロボットが代替する工数が大幅に増えるため、回収期間も短くなることが想定されている。ここで大きなポイントとなるのは、A社はロボットを完成した部分から少しずつでも運用し始めているという点である。
初期の工数削減は実現していながら、そこは通過点として、その先を見据えてこの取り組みを進めている。小さく始めるが小さく終わらせずにベネフィットの最大化を追求しているのである。