産学連携の新世紀

大学をコンサルタントに--「組織対組織」の産学連携が導くイノベーション:経産省 - (page 5)

飯田樹

2017-06-15 07:00

--企業に必要なのは、研究が分かる人と、テクノロジやアカデミアに興味があるトップがいて、長い目で見ていける状況ということですか。

 渡邉氏:チームやポジション、指示系統がしっかりしている中に目利きができる人間を連れてくるというのが一つあると思います。また、企業内では利益を出している既存分野が強いのですが、イノベーションを起こすためには、まだ利益は出していないけれど先の技術を扱っている部隊を、トップがしっかり守ることも重要です。ベンチャーを買収する方法もあります。大企業はなかなかベンチャー企業や大学の新技術にお金を出しませんが、それでは全ての技術が海外に行ってしまいます。日本の研究、製造技術は世界から注目されているので、日本の企業が率先して取り組むことは、産学連携をイノベーションに寄った視点で見た時に重要だと思いますね。

--そういう土壌があると産学連携も進めやすくなりそうですね。

 田村氏:どの分野を産学連携でやるのか、企業内で仕分けしておくことも必要だと思います。外で研究する部分は、自社の研究者をその分野から外して産学連携を進めることになるからです。産学連携は外の機関を使うことなので、経営戦略として、コアとして持っている部分と、共同でやらざるを得ない分野を分けないと、大学側もどうしたら良いのかわからなくなり、はっきりした結果が出なくなってしまいます。

--最後に、ファクトブックの最新版を2018年に出される予定ということで、今後の方向性についてお伺いできればと思います。

 渡邉氏:ファクトブックは、経産省だけではなく、経団連や文科省と一緒に、企業が欲しい情報を突き詰めていくことが、極めて重要だと思います。今、反応として言われているのは、各大学が産学連携本部の機能をどこまで持っているのかを「可視化」して欲しいということです。大学の組織としての強さ弱さは、研究としての強さ弱さではないからです。

 また、3月に行われた「未来投資会議」の場で安倍首相は、「ローカルアベノミクスの深化(スポーツ、農業ICT)」と「イノベーションのエコシステム構築」ついての議論を踏まえ、「企業が連携相手となる大学を選べるようにする。各大学の産学連携への取組を比較評価できるデータを整備し公開いたします」とコメントしました。今回のファクトブックには、大学への「産業界からの投資」を促進するための、産業界による大学の比較評価のツールとなるという狙いもあるのです。

飯田樹(編集者/ライター)
国際基督教大学教養学部卒業、早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。西欧政治思想史、 現代政治理論を専攻。
株式会社マイナビにてニュースサイト「マイナビニュース」の編集記者、ウェブメディア運営企業などを経験。 各種媒体での取材・執筆・編集、冊子の編集、進行管理、校正、広報誌/広報サイトの編集、プレスリリース作成、 SNS運用などを手がける。分野は、働き方・キャリア、社会、マネー、教育など。

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