展望2020年のIT企業

大手ITベンダー発ITベンチャーの行き先

田中克己

2019-08-26 07:00

 「歯を食いしばって、事業モデルや組織を変えてきた」――、大手ITベンダー発ITベンチャーのアクセラテクノロジで社長を務める進藤達也氏は検索エンジンからナレッジマネジメントへとシフトした苦労をこう話す。業務の知識(ナレッジ)を全社で共有し、日々改善していくナレッジマネジメントは今、働き方改革の追い風もあって、生産性向上の有効なツールとして再び注目を集めている。そこに着目した創業18年になる同社の変遷から、中小IT企業の勝ち抜く策が見えてくる。

ナレッジマネジメント専業ベンダーを目指すアクセラテクノロジ

 大学を卒業した進藤社長は1983年、富士通研究所に入り、並列処理型スーパーコンピューターの研究開発に取り組んだ。十数年後、その事業化に向けた事業部の新設とともに、同氏も異動する。「世界一速いものを開発すれば」と期待に胸を膨らませたが、同事業部は事実上、数年でなくしまったという。外資系ITベンダーなどに転職していくものもいたが、技術開発を続けたい進藤氏は開発したスーパーコンピューター用検索・分析エンジンに可能性を求めた。

 具体的には、検索エンジンをWindowsに移植し、1人1台のPC時代における企業内のデータ検索ツールに仕立てること。「実用化できる」と判断した進藤氏は起業するために、富士通のベンチャー制度に手を挙げた。ビジネスモデルや組織体制などの検討に約1年をかけて、2001年7月にアクセラテクノロジを設立する。富士通が求めた立ち上げ条件の1つである第三者の出資を、日本オラクルの初代社長を務めたサンブリッジのAllen Miner氏が引き受けてくれた。「事業化の芽があることを、第三者にも証明してほしかったのだろう」(進藤氏)

 アクセラテクノロジは設立の約4カ月後、Windows版検索エンジンを開発、発売した。ところが全く売れなかったという。株式の2分の1弱を持つ富士通が扱ってくれないのだ。アクセラテクノロジが富士通の取引口座を開けなかったからで、「それはおかしいだろう」と進藤氏は思いながら、「どうしたら売れるのか」と悩み続けた。資金はどんどんなくなり、「1年でつぶれるのか」と心配したが、関係者らの支援もあって富士通の口座を開設できたという。

 検索エンジンはそれを契機に少しずつ売れ始めた。だが、アクセラテクノロジに売れる理由が分からなかった。間接販売だったからだ。そこで、ユーザー向け商品セミナーを自ら企画し、顧客の声を直接聞いて、機能強化や次の商品開発に生かすことにした。セミナーを開催するには見込み顧客リストがいるので、関係する展示会に出展した。だが、3日間で集めた名刺はわずか100枚。「これでは、セミナーは難しい」となり、進藤氏は営業推進グループの太宰かおる氏らと他社の展示の仕方やリスト収集方法などを調べ、最近では3000枚を集められるまでになったという。

働き方改革を切り口にした業種別ソリューションへ

 展示会への出展やセミナーの開催などで、ユーザー事例が増えてきたアクセラテクノロジはビジネス拡大のチャンスと捉えて、営業を増やすなど人員増を図った。ところが、そんな10年ほど前から低迷し始めたという。システムインテグレーション(SI)の部品という位置付けだった検索エンジンのピークが過ぎたからだろう。なのに、営業は売れないのを製品のせいに、開発は営業のせいにする。「社内がぎくしゃくしてきた」(進藤氏)

 そこで、検索エンジンを生かしたソリューション作りへと、「一から商品も組織も作り直した」(進藤氏)という。それが約7年前に開発した業務の情報共有・活用を図るナレッジマネジメントツール「Accela」だ。提供方法もパッケージ商品ではなくクラウドサービスに、販売方法も直販にし、「富士通のチャネルに頼らないことにした」(同氏)

 ユーザーからの「テキストだけではなく、画像やコメントの記述、多言語対応」などといった要望を聞き入れて、機能に取り込んでいった結果、日産自動車や池上通信機、LIXILなど約50社で導入されたという。

 自信を持った進藤氏らは、Accela上で稼働する業種別ソリューションの開発にも取り組み始めた。ナレッジ活用を成功に導くポイントをテンプレート化した「達人シリーズ」がそれで、製造業の設計情報や営業推進部門の販売情報、機械設備などの保守情報、ヘルプデスクに必要な情報を共有・活用する4種類をそろえた。「業種ごとに、ITとコンサルティングを組み合わせたもので、物販に近い形にした」(進藤氏)

 しかも、労働人口が減少する中での生産性向上を図る有効なツールとして、ナレッジマネジメントへの期待も高まる。ナレッジを使って、新しいビジネスを生み出すことでもある。社員30人を超えたアクセラテクノロジは今、コンサルティングを拡充し、製造業への売り込みを強化している。目指すのはナレッジマネジメント専業ベンダーだ。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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