日本マイクロソフトは12月8日、ビジネスアプリケーションへの取り組みに関する記者説明会を開催した。同社はCRM(顧客関係管理)やERP(統合基幹業務システム)などの機能を備える「Microsoft Dynamics 365」、業務の自動化やローコード開発基盤などを組み合わせた「Microsoft Power Platform(Power Platform)」を提供する。Fortune 500の97%を含む50万社が両サービスを活用し、国内でもDynamics 365を採用企業が数千社に上るという。
説明会の冒頭でビジネスアプリケーション事業本部長の大谷健氏は、IT人材が43万人不足するとの予測を踏まえ、「われわれができることはビジネスアプリケーション領域における人材育成強化に尽きる」と述べた。そして、2021年1月からDynamics 365で3万6000人、Power Platformに含まれるアプリケーション開発の「Microsoft Power Apps」で5万1000人に、無償オンライントレーニングを提供すると発表した(人数は年間最大収容見込み)。受講コースにより1万2500円相当の無料試験特典も含まれるとしている。
日本マイクロソフト ビジネスアプリケーション事業本部長の大谷健氏
Dynamics 365は、当初はパッケージ製品群として、2016年からはクラウドソリューションとして提供され、「国内提供の開始より現在まで連続2桁成長を達成」(業務執行役員 ビジネスアプリケーション統括本部長の綱島朝子氏)とのこと。2017年度第4四半期の収益は前年度比74%増で、2018年は61%増、2019年は48%増、2020年は38%増と続いているという。
国内でもDynamics 365やPower Platformの採用事例が増えており、武蔵精密工業は、遠隔地での操作を支援するDynamics 365 Remote Assistと複合現実ヘッドセットのMicrosoft HoloLens 2を活用して、海外工場の生産設備の立ち上げを国内から支援する仕組みを構築した。立ち上げコストで50%、移動費用で約220万円の削減に成功している。
日本マイクロソフト 業務執行役員 ビジネスアプリケーション統括本部長の綱島朝子氏
また、業務改革に取り組む東京エレクトロンは、年間契約で顧客を支援する「アドバンスド フィールド ソリューション」を実現するための基盤としてDynamics 365を採用した。顧客から部品提供や保守依頼を受けたコールセンターのオペレーターを経由して担当者が作業指示書を作成し、任命した現場技術者が作業に向かう。作業完了後はタブレットなどで作業記録をDynamics 365に入力し、レポートを生成して依頼した顧客にサインしてもらう。この手順が簡潔になりフィールドサービスに関する間接業務工数を30%削減した。同社は今後3年間の業務改革施策にもDynamics 365を活用するといい。作業指示書の作成にDynamics 365を用いて1000人分以上の工数削減効果を見込んでいる。
Dynamics 365の概要
神戸市もPower Platformを活用する。コロナ禍で特別定額給付金の問い合わせがコールセンターに殺到した。この状況に対応するため、健康相談のチャットボットや統合ダッシュボード、特別定額給付金の申請状況などを確認できる住民ポータルの3つサービスを緊急事態宣言から2カ月で構築した。これによりコールセンターへの問い合わせが90%以上減ったという。経済産業省も約4万6000種類、年間48億件にも及ぶ紙の行政手続きから脱却するため、2020年2月にPower Appsの導入を決定。内製で開発した「後援名義申請アプリケーション」を試験運用している。
Power Platformの概要
大谷氏は、データの重要性を強調し、Dynamics 365とPower Platformに、AzureやMicrosoft 365を加えたクラウドソリューションについて、「われわれはこの10年間投資を続け、Microsoft Cloudという形で提供している」とした。競合ソリューションに対しても、「一定のカテゴリーに投資し、顧客の要望に応じて機能を継ぎ足している。一見するとポートフォリオは整っているように見えるが、彼らは『データのサイロ化』に対する解を持っていない」と述べた。Dynamics 365は年2回の更新を続けており、直近の10月には480を超える新機能が加わっているとした。