Microsoftは米国時間4月12日、Nuance Communicationsを現金197億ドル(約2兆1600億円)で買収することで合意したと発表した。Microsoftはこの動きをデジタルヘルスケアOSとして結実させることで、目まぐるしい変革のさなかにあるヘルスケア業界で同社のクラウドポートフォリオを展開していこうとしている。
Nuanceの買収は、エンタープライズ向けやヘルスケア業界向けの同社の人工知能(AI)事業が軌道に乗ってきた中での合意となった。Microsoftにとってこの買収は、かねてよりうわさされていた、「TikTok」を運営する字節跳動(バイトダンス)やPinterest、Discordの買収よりも理にかなっているというだけでなく、既に提携関係にある両社が力を合わせることで、ヘルスケア業界やエンタープライズ分野からの売上高の増加を期待できる。
Nuanceのテクノロジーでは、ヘルスケア分野の業務プロセスを円滑化するために音声認識やAI、自然言語処理(NLP)が用いられている。同社はここ数年、最高経営責任者(CEO)Mark Benjamin氏の下、AIを活用したヘルスケア業務に注力するために部門や事業の分離や売却を実施してきている。なおBenjamin氏は今回の買収にともない、Microsoftのクラウド/AI担当エグゼクティブバイスプレジデントであるScott Guthrie氏の直属となる。
Nuanceの2020年における売上高の62%はヘルスケア業界からのものとなっており、残りはほぼエンタープライズ分野からのものとなっている。一方Microsoftは最近、「Microsoft Cloud for Healthcare」サービスの提供を開始しているが、同サービスはNuance買収にともなって大幅に拡張されるはずだ。MicrosoftのCEOであるSatya Nadella氏は業界に特化したクラウドに力を入れており、Nuanceの買収によってヘルスケア分野におけるMicrosoftの有効市場(TAM:Total Addressable Market)は5000億ドル(約55兆円)になるとされている。
Nadella氏はアナリストらとの電話会議で以下のように述べた。
デジタル投資を加速させるヘルスケア組織は患者の予後を改善したり、大規模なコスト削減を実現できるということが今や明確になっている。AIなどの進歩は、ヘルスケア分野における人間の能力の向上に多大な影響をもたらす。AIはテクノロジーとして最優先のものであり、ヘルスケアは最も緊急性の高い応用分野だ。
NuanceはエンタープライズAIの先駆者であり、ヘルスケアのポイントオブデリバリー(POD)におけるAIレイヤーを提供している。今回の買収によって、当社のテクノロジーが医師と患者の関係の中で直接活用されるようになり、あらゆるヘルスケアのデリバリーで中心的な役割を果たすようになる。