クラウドは、使えるストレージの量やコンピューティング能力に制約がないため、データの処理やアナリティクスに適しているが、クラウド環境の利用はデータのプロフェッショナルの生産性が低下する事態を招いている側面もあった。その理由を一言で言えば、大手クラウドプロバイダーは多くのデータプラットフォームを提供しているが、市場に出したら、適切なサービスの組み合わせを選び、連携させる作業を顧客に委ねているからだ。一方、古いタイプの巨大なエンタープライズソフトウェアは、色々な問題は抱えてはいるかもしれないものの、今日のハイパースケールクラウドプロバイダーのように、顧客に自分で部品を組み立てさせるようなことはなかった。
最近までSAPのデータおよびアナリティクス担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めていたGerrit Kazmaier氏が、新たにGoogle Cloudのデータベース、アナリティクス、Looker担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーに就任したのは、これが理由かもしれない。何しろSAPは、エンタープライズソフトウェア企業を代表する存在だ。そこに因果関係があるのか、 単なる偶然の一致なのかはともかく、Kazmaier氏は、米ZDNetの取材に応じて、米国時間10月12日からGoogleが開催しているオンラインイベント「Google Cloud Next '21」で発表された多くの新機能について説明してくれた。これらの新機能は、Google Cloudのデータプラットフォームを、従来のエンタープライズソフトウェアのように「スイッチを入れればすぐに使える」ようにするものだ。
Vertex AIとアナリティクス
Google Cloudが最初に発表したのは、「Vertex AI」サービスの新製品である「Vertex AI Workbench」(現在プレビュー)だ。Workbenchは基本的に、マネージドサービスのノートブックで、機械学習や人工知能(AI)の開発を行うためのIDE(統合開発環境)のように機能する。Workbenchは、Vertex AIの(トレーニングや予測サービスなどの)コアコンポーネントを、「BigQuery」「Dataproc」「Dataplex」などのデータプラットフォームの主要コンポーネントと結びつける。
これは、クラウドのアナリティクス環境にこれまで欠けていた種類の機能だ。これらを連携させることができれば、データサイエンティストや、機械学習エンジニアや、データエンジニアが、サービスを渡り歩きながら道具を切り替えているうちに、思考の流れが途切れてしまうのを防げるだろう。複数のサービスのUIをブラウザーの別のタブで開くかなければならないのであれば、統合したとは言えず、一連のサービスを互いに補完的なサービスの文脈で利用できる必要がある。
BigQuery Omni
Google Cloudが12日に行ったもう1つの大きな発表は、「BigQuery Omni」の一般提供開始だ。これによって、BigQueryのユーザーは、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureに置いてあるデータに効率的にアクセスできるようになる。この機能は、BigQueryのインスタンスをこれらの競合クラウド上に置き、それらのクラウド上でクエリーを実行して、その結果をGoogle Cloudに返すことで実現されている。