デジタルが実現する新たな「健康経営」の実践

第3回:企業は持続的な健康経営の取り組みとして何をすればいいのか

古田健 (NTTPCコミュニケーションズ)

2024-04-17 06:00

 連載の最後となる今回は、実効性のある持続的な健康経営の取り組みとして、企業は何を実施すればいいのか、具体例を挙げて説明します。

 前回の記事では、パルスサーベイやバイタルデータなどの個人情報は、個人の中に閉じておくべきだと述べました。では、上司はどうやって部下1人1人の健康状態やパフォーマンス状況を把握すればよいのでしょうか。

現状把握は1on1が基本

 健康経営の実現に向けた組織としての課題を把握するには、上司と部下との1on1が基本です。あるIT企業の例を紹介します。

 この企業では、従業員約300人にバイタルセンサーのリストバンドを着けてもらい、さらに、そのうち特定部門の20人は、週1回上司と部下の1on1を実施しました。その際、本来は自分だけが把握可能な自身の心的ストレスの状態について、可能な範囲で上司と共有し話をするという取り組みをしました。2カ月間、計8回の1on1を実施したところ、この部門ではリスク度(イライラや心的疲労が非常に高い人の割合)が24ポイント減少し、活性度は23ポイント向上したという結果が得られています。

バイタルデータを活用した1on1の効果
バイタルデータを活用した1on1の効果

 1on1により、集中していた時間帯や逆にイライラしていた時間帯などいつもと違うポジティブ、ネガティブな状態を改めて自覚でき、また、強制されることなく自ら上司に共有できたという安心感が得られました。

 具体的には、ある時間帯に極めて集中している特異な傾向が見えたため、上司と相談の上タスクチェンジを実施して、その時間帯にあえて別の重要な仕事を寄せたところ、生産性が向上し、業務時間の短縮を実現し、組織全体の活性度向上にもつながりました。

 一方で、イライラしている時間については、原因の半分以上が人とのコミュニケーションであることを把握できました。個人対個人で悪化している関係の改善は一朝一夕には解決できませんが、上司としては、今後のチームビルディングの参考としたり、上司自身が介入することによって2人の関係性をフォローしたりするなど、適所でより的確なアクションを実施でき、組織のリスク度が低減する効果が現れました。さらに、1on1で話をすることで心がすっきりするという効果もありました。

 働く環境は今後さらに多様化することが想定されます。従前のように一つ屋根の下で同じ釜の飯を食べ一緒に汗を流すような職場環境であれば、担当者のちょっとした所作や顔色の変化で職場のリスクにつながる要因を未然に察知することができました。しかし、今は管理者自身がリスクの想定や課題の把握をするためにさまざまな情報を入手できることの重要性が非常に増しており、多忙な管理者でも把握したい情報をタイムリーに得られるツールや手法がますます必要になります。

 健康経営を効果的に実現するための組織の現状把握には、ほかのツールと組み合わせていくことも一つの手段です。例えば、スケジューラーを活用すれば、担当者や業務内容の大まかな確認が行えます。管理者が組織のリスク度や活性度の急な変化を把握した際に、担当者のスケジューラーと照合することで、「何が課題だったのか」「どういうトリガーでそのような状態になっているのか」といった仮説立てに活用することができます。

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