三国大洋のスクラップブック

ユニクロがアップルから学んだ3つの教訓

三国大洋 2012年09月06日 17時43分

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iPod nanoをジーンズのポケットから取り出すスティーブ・ジョブズ

 ユニクロ(ファーストリテイリング)がこの秋から米国での店舗展開を本格化させるようだ。メディアを使った援護射撃のインタビュー記事を先週あたりから目にすることが多い。

 普段から割とよく買うブランドなので、すっかり知っているつもりになっていたが、思いの外知らないことが多いことに気づかされた。そういう灯台下暗しのような再発見の話を、今回は記してみたい(註1)。

柳井のヒーローはサム・ウォルトンとスティーブ・ジョブズ

 WSJ Magazineのインタビューは、いまや日本一の資産家となった柳井正社長も東京から電話会議で参加するという力の入れよう。北米市場での実質的な再挑戦に向けた同社の気合いが伺われるが、この記事でまず目を惹いたのが「柳井のヒーローはサム・ウォルトンとスティーブ・ジョブズ」というキャッチコピーだ(註2)。

 ウォルマート創業者のウォルトンもジョブズも米国人には身近な存在。「自分たちのルールに従う限りはウェルカム」という米国社会の特質を考えると、実にいいところに目をつけたものだと思う。優秀なPRの専門家を雇ったに違いないなどと、勝手な想像を膨らませてくれるような見事な手際である。

 この記事で特に面白いと思った3つの点——アップルとユニクロに共通する事柄を書き出してみよう。ご本人たちは創業者のビジョンとか、ブランドの技術革新、あるいは店舗でのホスピタリティといった点を強調したいように見えるが、それよりもずっと面白いと思えたからである。

 先にその3つを紹介しておこう——「失敗から学ぶ」「万人向けのものづくり」「サプライチェーンによる競争力」だ。

教訓その1:失敗から学ぶ

 今回、米国での展開を本格化させるにあたり、ユニクロが周到な準備を進めているように見受けられる背景には、同社が米国市場での展開で「バツイチ」という事情があるようだ。

 ユニクロはすでにニューヨーク市内で大きな店舗を三軒構えているが、この秋には全国展開の第一弾として、サンフランシスコのユニオンスクウェア(有名な観光スポットでもある)の近くと、ニュージャージー州のショッピングモールにそれぞれ大規模店を開店する予定だ。このうち、ニュージャージーの店舗が入るGarden State Plazaは、2005年に北米進出した際に開店した3つの小さな店舗の一つが入っていたモール。これら3店舗はいずれも業績が振るわず、間もなく閉店することになったというから、いわば因縁の地といえよう。

 ユニクロはこの失敗から「どこの馬の骨とも知れぬカジュアルファッションのブランドが、これといって特徴もない店をこじんまりと構えても客がやってくるわけがない」という教訓を得た。そして、間もなく大規模な旗艦店をオープンさせたことは周知のとおり(註3)。

 「この旗艦店がなければ、著名デザイナーのジル・サンダースと契約を結べることもなかっただろう」という幹部の言葉が載っているが、同時に「大都市の目抜き通りに旗艦店を構えることは、日本国外では特に重要」という考えは、銀座のど真ん中にアップルストアを出店させた時のスティーブ・ジョブズの言葉をちょっと思い出させるものでもある(註4)。

 ところで、失敗から学ぶことの重要性は柳井自身が特に重視している点のようだ。WSJの記事でも言及されている柳井のMcKinsey Quarterlyへの寄稿記事(註5)には、次のような文章が出てくる(文脈を明らかにするため、少し長めに引用した)。

 …今日の日本は、経済大国として臨んだ戦いに完全に敗北してしまったのである。それなのになぜ、いつまでも気づかないのだろう。なぜ失敗から学ばないのだろうか。

 ユニクロは、不幸にして一度ならず失敗を経験している。そこから学ばなければ生き残ることはできなかった。

 2001年には、海外第1号店を英国ロンドンにオープンした。だが、ものの見事に失敗した。英国内の店舗数を短期間で21まで拡大したが、2003年にはそのうちの16店舗が閉鎖に追い込まれた。いま振り返ってみてよい経験をしたと思えるのは、失敗から得るものが多かったからだ。

 (略)

 英国の次に海外進出した市場の中国でも、当初は失敗した。失敗の原因は中国に合わせようとし過ぎたことだ。

 (略)

 もうひとつ、野菜でもひどい失敗をした。

(『若者よ、日本を出よ』:『日本の未来について話そう—日本再生への提言—』小学館刊)

 スティーブ・ジョブズがある種の「失敗の名人」だったことは改めて述べる必要もなかろう。特にiPodの大ヒット以降は大きな打ち手のほとんどが成功を収め、しまいには「この10年を代表する名経営者」にさえ選ばれたジョブズ。けれども、ちょくちょく失敗をした。

 「Power Mac G4 Cube」ほどのクリティカルな失敗は例外だとしても、初代Macintoshや後期のiMac G3(花柄や水玉模様のアレ)がどれほど利益をもたらしたかはちょっと疑わしい。また例の「アンテナゲート」のようにぎりぎりで大災害になるのを食い止めたこともあるし、ウェブサービス「MobileMe」のように何度も再挑戦した末にやっと「iCloud」でそれなりになったものもある。

 さらに、そもそも流浪の時代がなければ、ジョブズが後にあれほど傑出した存在になることもなかったのではないかという見方さえある。流浪の時代とは、ジョブズがアップルを飛び出した1985年から再び同社に舞い戻る1996年末までの約11年間を指す。Fast Company誌の「The Lost Steve Jobs Tapes」という特集記事にそうした見方が詳しく書かれている(註6)。(次ページ「「万人向けのものづくり」と「サプライチェーンによる競争力」」)

註1:WSJ Magazineの記事

WSJ Magazineの記事はWSJ日本版でも掲載されている。

【インタビュー】ユニクロの柳井社長、世界市場制覇を目指す - WSJ日本版

会員登録が必要だが気になった方はご覧になってみることをお勧めする。


註2:柳井のヒーローはサム・ウォルトンとスティーブ・ジョブズ

"Yanai's heroes are Sam Walton and a Jobs, which is why he yearned to plant his flag in America - where entrepreneurial chutzpah is a religion."

This Man Wants to Clothe the Plant - WSJ


註3:どこの馬の骨ともしれないブランドが……

In 2005, Uniqlo landed on U.S. shores, opening a trio of small shops in New Jersey malls. They performed poorly and were soon shut down. "No one knew who we were," U.S. CEO Shin Odake says. "You can't succeed as a casual clothing store when you have no brand recognition; you're in a small, ordinary space with less than 10,000 square feet. People need a reason to get excited about you."

This Man Wants to Clothe the Plant - WSJ


註4:大都市の目抜き通りに旗艦店を構えること

"Flagship stores on high-profile streets are extremely important to the brand outside of Japan," says Odake.

This Man Wants to Clothe the Plant - WSJ


註5:McKinsey Quarterlyへの寄稿記事

Yanai is a man of ruthless ambition and bold declarations, bucking the mold of the traditional, cautious Japanese executive. Last year, he wrote an essay for McKinsey Quarterly in which he complained that "Japan's biggest problems are conservatism and cowardice" and that "Japanese businesspeople and companies are lacking in individuality."

This Man Wants to Clothe the Plant - WSJ

本稿では書籍から引用したが、原文はMcKinsey Quarterlyのウェブサイトにも載っている。

Dare to err - McKinsey Quarterly


註6:Fast Companyの特集

The Lost Steve Jobs Tapes - Fast Company

記事を書いたのはブレント・シュレンダーというベテランジャーナリスト。FortuneやWSJに籍を置きながら、その間長くアップル番を務め、ジョブズに何度もインタビューしていた人物だ。そのシュレンダーが、ジョブズの死後、物置かどこかから見つけ出した昔のインタビューテープを聞き返して書いたという。

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