余談:ワイルドウェストの痕跡を残す米通信業界
先ほど、ワシントンに大きな影響力をもつプレーヤーがいる一方、海千山千のギャンブラーもいるのが米携帯通信市場の特徴だと書いた。この米国らしいワイルドな市場をもう少し紹介したい。
コロンビア大学ロースクール教授で、ライターでもあり、一時期FTC(米公正取引委員会)のシニアアドバイザーを務めたこともある「ネットワーク中立性」の権威、ティム・ウーが書いた「The Master Switch」には、旧AT&Tが20世紀初頭に全米の電話網をほぼ掌握した後、同社に事実上の独占(同書によれば「enlightened monopoly」)を認めさせることと引き替えに、連邦政府の監督を受け入れさせた話が書いてある。
同書には、それ以前の米通信業界では数百という大小様々な会社がほぼ好き勝手に電話線を張り巡らせ事業を拡張しており、非常にワイルドな様子だったという話も登場する。
アナログ携帯電話の黎明期に名を成したクレイグ・マッコウは、地方のラジオ局やテレビ局の売買で成功した親の元に生まれた。子どもの頃にCATV契約のセールスを経験したあと、80年代に黎明期の携帯電話業界で台頭。90年代前半にはマッコウ・セルラーという会社を長距離電話会社時代のAT&Tに100億ドルを超える金額で売却することに成功した。さらに、その資金の一部を注ぎ込んで多数の株式を手に入れていたネクステルが、2005年にスプリントに360億ドルで売却されたことで投資家としても大きな成功を収めたとされる。
その一方で、90年代半ばに立ち上げた衛星通信事業者テレデシック——出資者にマッコウ・セルラーとマイクロソフトのほか、ビル・ゲイツ、ポール・アレン、サウジ王族筋の有力投資家で低迷期のアップルに資金を投じて後に大儲けしたでも知られるアルワリード王子(なんと株価9ドルの時に購入していたとか)の名前などもある——や、近年WiMAXに賭けてあてが外れたクリアワイヤなど、うまくいかなかった有名なベンチャーの例もいくつかある。
このように、米国の通信市場は大開拓時代を経験した国らしく、ワイルドで草の根的な発展の痕跡がいまでも残っている感じがする。
なお、今回のソフトバンクによるスプリント買収に際して、クリアワイヤが計画している2.5GHz周波数帯を使ったTD-LTE方式の通信網・サービスがにわかに注目を集めた。この周波数帯、もともとはスプリントが保有していたもので、同社が2008年にクリアワイヤとWiMAX関連の大規模な提携を行った際に、クリアワイヤに譲渡していたものだという。また、ソフトバンクによる買収計画が発表された直後、スプリントがクリアワイヤの株式の過半数を抑えるために、マッコウ保有の株式を譲り受けたという話も伝わった。
クリアワイアにはコムキャスト、タイムワーナー・ケーブル、インテル、グーグルなども出資しており、スプリントは今もこれらの出資者と株式取得に関する交渉を水面下で続けているといった観測もある。
(敬称略)
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