ソフトバンクの行動が米通信業界を揺さぶっている
ソフトバンクが買収を進めている米スプリント・ネクステルが、モバイル向けブロードバンドサービスを展開するクリアワイヤを完全に傘下に収める可能性が濃厚になった。
ベライゾンとAT&Tの二強に挑むソフトバンクにとって重要なマイルストーンとなるこの買収、現時点で判っていることと、今後注目したい点を整理し、新規参入組の重要な動向も踏まえてポイントを整理した。
思いのほか早く動いたスプリント
ソフトバンクが10月にスプリント株式の70%取得に動いた時、この買収の話はすでに噂となっていた。それが先週から、各社の具体的な動きが複数のメディアを通じて伝えられるようになる。ソフトバンクのスプリント株式取得を米規制当局が承認してからか……という見方が一部であったことを考え合わせると、スプリントが思いのほか早く動いたなという感じもする。
両社が合意した22億ドル(一株あたり2.97ドル)という買取金額(クリアワイヤの正味の時価総額は約44億ドル)については、後に述べる理由により、かなり割安だとする見方を持つ記事も複数ある。また、実際に「もっと高値で売り抜けられるのではないか」という期待から、当初の提示価格2.9ドルを上回る3ドル30セント付近まで上昇していたクリアワイヤ株価は、米国時間12月17日にあった両社の合意発表を受けての失望売りにより、2ドル90セント付近まで下落している。
クリアワイヤ(CLWR)株価の推移(出典:Google Finance)
この買い取り提案は、約51%のクリアワイヤ株式を保有するスプリントが、クリアワイヤの判断に口出しできないという内容。見方によっては公平でもあり、別の見方ではなんとも奇妙な内容で、スプリント以外の株主の過半数の賛成、そしてクリアワイヤ取締役会の過半数の賛成、ならびに買収の前提となるソフトバンクの承認を得ることが必要とされていた。クリアワイヤ株式をあわせて約10%持つ二つの投資ファンドがすでに反対を表明していることなどから、あとひと波乱かふた波乱という可能性もありそうだ。
一方、クリアワイヤ取締役会とソフトバンクの承認、それに大口株主の3社(インテル、コムキャスト、ブライトハウス)がスプリントの提案を支持していることもあり、スプリント側はひとまずほっとしているところかもしれない。
AT&T+ベライゾンよりも多くの周波数帯を手に
上掲の図はクリアワイヤの資料で、米主要100市場(地域)における携帯通信大手各社の保有周波数帯容量を比較したもの。2012年6月時点の情報で、情報源はクリアワイヤ株式を所有する投資ファンドの関係者がSeeking Alphaに投稿した「The Endgame At Clearwire: Let The Negotiating And Gamesmanship Begin」という記事だ。
このグラフからも分かるとおり、いちばん左端のクリアワイヤ(160)と、右から3番目のスプリント(55)を足すと、1社であわせて215MHzもの帯域を押さえられることになる。また、棒グラフのブルーの部分はほぼそのままモバイルブロードバンドに利用できる帯域、それに対してグレーの部分は従来の3Gなど音声通信にも使われている帯域で、「我々には面倒なレガシー網という足かせがないぞ」といった説明も書かれていたりする(図中右側の記述、上から3番目)。
ここで特に注目されるのは、クリアワイヤを傘下におさめたスプリントの215MHzという帯域容量が、AT&T(112MHz)、ベライゾン(100MHz)の2社を合わせた容量よりも多いという点だ。