Baxterは「人間の仕事の価値とは何か」という問いを私たちに突きつけている(出典:Rethink Robotics)
1993年に創刊された雑誌『WIRED』の新年号に、初代編集長を務めたケビン・ケリーの寄稿記事が掲載されている。
ケリーといえば、伝説の雑誌『Whole Earth Catalogue』——若い頃のスティーブ・ジョブズも多いに刺激を受けたという例の「Stay Hungry, Stay Foolish」の出処となった雑誌——で編集に携わったこともあるという大ベテランだ。
ケリーはすでに還暦を超えており、決してキャリアの登り坂にある人材というわけではない。しかし、近年になって注目を浴び、また実際に定着しつつもあるような「ビッグデータ」や「Internet of Things」といった事象について、十数年も前にその重要性に着目していたという慧眼ぶりを発揮。英語ではよく「Pundits」(賢者)という言葉を目にするが、ケリーもすでにそういう位置づけの人になっているのかもしれない——。
そんなことを思いながら、このなかば現役を退いたかのようにも見えるふしぎな編集者の新しい記事を読んでみた。
産業ロボット版「メインフレーム対パソコン」
Rethink Roboticsの会長 兼 CTOを務めるロドニー・ブルックス(出典:Techonomy)
WIRED新年号の特集記事「ロボットはすでに私たちに取って代わっている」と題したメインの記事と対になったこのエッセイで、ケリーが焦点を当てているのは、インテリジェンスを備えたロボット。ただし、カレル・チャペック的、あるいは鉄腕アトム的な未来のロボットではなく、すでに現在進行中の認知や学習能力をもったマシンの誕生にフォーカスしており、具体例として出てくるのが「Baxter」という愛称をもつ産業用ロボットだ。
リシンク・ロボティクスという名の新興企業が開発しているといっても、私を含めてピンとくる人は少ないだろうが、家庭用お掃除ロボット「Roomba(ルンバ)」の産みの親でiRobot共同創業者のロドニー・ブルックスが現在手がける製品というと、なんとなく興味が湧いてくるだろう。
ケリーによると、Baxterには重要なポイントが3つあるという。「普通の人でも作業を覚えさせることができる学習能力」「まわりの状況を認識する能力、またそれを人間に伝える能力」「ひと桁安いTCO(総費用)」の3つで、先の2つについては上記のビデオにも説明がある。3番目の点については、同社ウェブサイトの見積もりページをみると、1台2万2000ドルという本体価格のほか、いつくかのオプションの値段もわかる。
ケリーは、これまでの産業用ロボットをメインフレームコンピュータに、そしてBaxterをパソコンに喩えて、両者の違いを説明している。それによると、本体価格だけで10万ドルを上回る場合も珍しくない前者では、保守やアップデートなどに本体価格の4倍以上の費用がかかり、トータルコストが50万ドルを超えてしまう。その大きな要因は、特殊なスキルをもったプログラマーの手を借りるなどして、ソフトウェアをアップデートしなくてはならないことにある。
対するBaxterは、ビデオにもあるように、普通の人が「手取り足取り」といった形で動作を覚えさせることができるため、プログラミングにかかるコストを劇的に下げられる。