スティーブ・ジョブズの大きな功績の一つに、エンターテイメント業界への貢献がある。ピクサーを設立して映画業界に新風を吹き込んだのだ。しかし、そのジョブズでさえテレビ業界は「業界構造が問題でイノベーションの余地がない」と嘆いていた。画像は2003年5月に開かれた『ファインディング・ニモ』のプレミア上映会での様子(credit: Eric Charbonneau/BEImages/Walt Disney Pictures/PRN/Newscom)
米テレビ市場については、生前のスティーブ・ジョブズが「業界構造が問題でイノベーションの余地がない」と嘆いていた。
具体的には「有料テレビ放送の業界が販売助成金モデルを採っていて、(有料テレビ放送の契約者は)誰でもタダでセットトップボックス(STB)を手に入れることができる。お金を払ってSTBを手に入れようとする人などいない」と説明していた(註1)。
ここでの「テレビ業界」が、ハードウェア=テレビ放送の受像装置としてのテレビ市場を指し示していない点は興味深く、同時に注意するべき点でもある。
ともあれ、すでに著しいコモディティ化が進み、大手メーカーでさえ何年も赤字が続いている領域なのは周知の事実。投資家から高い粗利率、最低でも40%以上の粗利率を切実に求められるアップルが、そんな分野に工夫なしで飛び込む可能性が極めて少ないことも、改めて説明の必要がない点かと思う。
また、インテル・メディアに関する話のなかでは、インテルが「コンテンツのバンドル提供には手をつけず、オーバーザトップ(OTT)配信の分野に入り込もうとしているらしい」などとも書いた。
この「業界構造」やら「バンドル」の問題やらを知る上で、格好の入り口になりそうな話がニュースになっていた。「ケーブルビジョンというCATV会社が、バイアコムというメディア企業を訴えた」という先週火曜日(米国時間2月26日)のニュースである。
バイアコムは、ディズニー、タイムワーナー、フォックス(旧ニューズコープのテレビ・映画部門)とならぶ四大大手の一角。傘下のMTVは日本でもすっかり定着したから、バイアコムの名前を見聞きしたこともあるだろう。また、やはり傘下の子ども向けアニメチャンネル「ニコロデオン」の名前には馴染みがない方でも、「スポンジボブの会社」といえば多少はピンとくるかもしれない。
バイアコム本体も長い歴史のある企業で、一時はテレビ局のCBSを買収したり、あるいは2010年に倒産した大手ビデオレンタルチェーンのブロックバスター(註2)を所有していたこともあったが、近年ではMTVをはじめとするテレビ関連事業と、パラマウント・ピクチャーズの映画配給事業が二本柱となっている(註3)。ただし、バイアコム創業者のサムナー・レッドストーンはいまでもCBS会長の座にある(註4)。
一方、ケーブルビジョンは加入者数で業界第5位のCATV事業者。Wikipediaの説明には、営業展開するエリアがニューヨーク市を中心とした相対的に恵まれた地域であるとか、前身となった会社も含めるとケーブルテレビの黎明期である1960年代から営業している老舗事業者などとある(註5)。
また、近年にスピンオフした資産の中には、AMCネットワーク(人気テレビ番組「ウォーキング・デッド」などを放映するテレビチャネル)や、ニューヨーク市のマジソン・スクウェア・ガーデンの持ち株会社なども含まれる。どちらも別の法人格になったが、ケーブルビジョンの創業者一族が今なお経営権を握っている(註6)。