「堪えがたい軽さ」と書かれたティム・クックの話
Tim CookのD11カンファレンスでのセッションについて『Inside Apple』という著作もあるAdam Lashinsky--Fortuneで論説委員的な立場(Sr. Editor at Large)にあるベテラン編集者が、「Tim Cook発言の耐えがたい軽さ」(”The unbearable lightness of what Tim Cook says”)と題した記事に感想をまとめている(註7)。
[Tim Cook at D11: Full Session]
「Cookは2年連続で、AllthingsD主催の有名なカンファレンスのオープニングセッションに登場。そして、2年続けてApple内部で今どんなことが進んでいるのかをほとんど明かさなかった」というLashinskyの指摘(註8)は、セッション全体の印象をうまく表現していると思えるが、ほかにも「Cookと(聞き手の)Walt MossbergやKara Swisherとのやりとりは、苦痛もしくは退屈のどちらか」(註9)、「Cook発言の一部は、ミスリーディングあるいはまやかしの匂いがした」(註10)などとも書いている。
前者については、聞き手がAppleで開発中の新製品について聞こうと再三にわたり話を振ったことに対し、Cookがことごとくノーコメント(もしくは「今は言えない」)としていたことを指してのもの。また後者は、たとえば「競合相手についてどう思うか」などと聞かれたCookが「Appleにはいつの時代にも強力な競争相手がいた」などとして話をはぐらかしたことなどについてのもので、Lashinskyは「今さらMicrosoftやDellの名前を引っ張り出してきても、しかたがないだろう。
みんなが知りたいのは今現在のこと、たとえば「GoogleやSamsungからのますます大きくなる脅威についてどう思っているか、どう対処していくつもりなのかといったことだ」などと記している。
また、米CNETからGigaOMに移ったTom Krazitあたりも「今やテクノロジ業界関連のカンファレンスの中でも最も有名になったDのステージで、Cookは2年続けて(Appleについての)目新しいことや人をワクワクさせるようなことを話せずに終わった」「iPhoneは登場から6年が経ち、iPadにしてもすでに3年が経っていて、みんなよく知っていること」などと、Lashinskyと同じような指摘をしている(註11)
こうした批判的な見方は、あくまでも少数派の意見に過ぎないのかもしれないが、セッションの最後にあった聴衆との質疑応答では、Google ChromeやGoogle NowなどAppleのものよりはるかに優れた製品が出てきていることなどを踏まえて「少しは未来像を示したらどうか」("Why won't you give us a view of the future":註12)といった声も出ていたというから、Cookのコミュニケーションのやり方に対して、そうした不満あるいは苛立ちを覚えているのは、一部のすれっからしのメディア関係者だけではないとも言えそうだ。
この一年間、Appleに起こったさまざまな変化やその大きさなどを考えると、Cookが前回とほぼ同じようなことしか口にしなかったということの方がむしろ奇異に思えることといえよう。また「慎重に言葉を選んで……」などと表されることも多い同氏の受け答えぶりは、前週のワシントン(議会の聴聞会)ではよい方に効果を発揮した--トラブルシューティングに大いに役立ったけれども、何かと新しいものを追い求めたがるシリコンバレー(と関連メディア業界)ではそうした慎重さがかえって徒(あだ)になった、と見ることもできるかもしれない。
このセッションの中で、株価について聞かれたCookは「満足できる状態とは言えない」("frustrating":註13)という言葉を口にしていたが、そんな状態も「Appleが考える未来像」を示すとか、あるいはわずかなりとも新製品の話をするとかするようになれば、自ずと少しずつ解決していくのではないか、などという思いもしている。