Steve BallmerのMicrosoft最高経営責任者(CEO)退任発表に関する話の続きを記す。
あの「意外な」発表について、「実は本人はもっと長くCEOを務める気でいた」のではないか、などとする話が出てきている。この話の出所はAllThingsDのKara Swisher――Walt Mossbergとともに同媒体の立ち上げ時から活躍してきたベテラン記者(註1)で、もっと正確に言うとSwisherに情報を流したMicrosoft関係者(内部者)の話ということになる。
Swisherが記しているところでは、退任発表の最終判断はBallmer自身で下したものだが、ただしその決断にいたる経緯は本人の説明(社員向けメモ)やMicrosoftの声明などで明らかにされているよりもずっとゴタゴタしたものだったらしい(“It was neither planned nor as smooth as portrayed.”という書き方がされている)。
このSwisherの記事で目を惹く点を書き出すと:
- Ballmerは、先月の大型組織再編をきっかけに乗り出そうとしていた大きな方向転換――「Device & Service Comany」「One Microsoft」などの実現に向けた動きがある程度軌道に乗るまで、CEOを続けるつもりでいた(註2)。
- Ballmerはこの組織再編についても、自分を中心に据えた絵を描いていた。また社外取締役会も「Ballmer支持」で合意していた。
- ところが先月に発表した四半期決算がさんざんな内容だった。さらに今四半期は業績がさらに悪化するとの予想も出てきた(「Windows 8の導入減速」などとある)。それで、Ballmer本人も取締役らも「ここいらが(CEO交代の)潮時か」という考えに傾いた。
- ValueActというファンド――activist investorとあるからCarl IcahnやDaniel Loebらと同じ類いだろう――がMicrosoftの株式をすでに20億ドル程度買い集めていて、それをテコにMicrosoftの取締役会に人間を送り込もうとしている――取締会の座席をひとつ要求している。この要求を通すためにValueActが委任状争奪戦を仕掛けるとなった場合、そのことを8月30日までにMicrosoftに通知することになっている。
- 委任状争奪戦が勃発すれば、結果の勝ち負けに関係なく、Ballmerのこれまでのパフォーマンスに対して、これまで以上に世間の目が集まり、Microsoftとしては有り難くない事態になってしまいかねない。
- Reed Hastings(NetflixのCEO)が昨年10月にMicrosoftの社外取締役を辞任したのは、「Ballmerを辞めさせたほうがいい」という自分の考えが他のメンバーに受け入れられなかったから。
- Ballmerに対するBill Gatesの支持は以前ほど強力なものではなくなっていたかもしれないが、それでも2人の間に緊張関係が生じていたとか、GatesがBallmerに引導を渡したというのは考えられない。
- 後継CEOの選定についてはやはりGatesが鍵を握る。
などといったことで、この後はまず30日に何らかの動きがあるかどうかが第1の注目点となろう。
このAllThingsD記事には、BallmerがCEOになった2000年1月には6000億ドルを付けていたMicrosoftの時価総額が現在では2700億ドル以下まで減少している、という一節がある(註3)。同時に、CNETの記者Dan FarberなどはBallmerのCEO在任中に「売り上げは3倍増、利益も倍増」したなどと指摘している(註4)。Ballmerとしては世間に後者の方を見てもらいたかった――実際に、2012年初めに出ていたBusinessweekの特集記事からは、「これだけ業績を上げたのに、なぜ株価のほうは上がらないんだ」と当人たちが戸惑っているような印象も伝わってくる(註5)のかもしれないが、結局「そうは問屋が卸してくれなかった」ということになろうか(AppleのTim Cookあたりにとっても「他人事」とは思えない話かもしれない)。