近年、製造業を取り巻く環境は大きく変化し、製品への要求も高度化する中で重視されているのが、PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)ソフトウェアだ。
コンピュータを利用した製品のデザイン、耐久性のテスト、世界中のさまざまな部署を横断したプロジェクトチームをつくるコラボレーション機能など、ものづくり全体をサポートする重要な役割を担っている。
アジア太平洋地域を統括するSiemens PLM SoftwareのKC Yee氏
PLM分野のソフトウェア大手で、日本でもトヨタ自動車をはじめとしたなどさまざまな企業が採用しているのがSiemens PLM Softwareの製品だ。同社のアジア太平洋地域を統括するマネージングディレクターで、本社シニアバイスプレジデントを兼務するKC Yee(ケー・シー・イー)氏に、世界中で大きく変わりつつある製造業の現状と展望について聞いた。
キーワードは「インダストリー4.0」。モノ、データ、サービスをつなげることによる新たな製造業の方向性を示すもので、Internet of Thingsの観点からのものづくりの革新といった意味でとらえることができる。
進むシステム・オブ・システムズ化
製品の変化を、自動車を例に見てみよう。近年では、自動運転技術の開発が進んでいるが、その一部の機能が市販車に取り入れられつつあり、特に安全性や燃費などの向上に役立てられている。
PLMの役割は製品の計画、設計、組み立て、サポートという一連の流れを効率的に管理していくこと
例えば安全面では、車載レーダーやカメラなどで前の自動車や障害物の異常接近を検知した際にブレーキやスロットルを制御して事故を回避したり、被害を軽減したりといった機能は、今は軽自動車でも採用されている。
また、発進や加速をスムーズにするのと同時に、燃費を軽減するために一時的にオルタネータの発電や空調コンプレッサを止める機能を搭載した車種もある。
これらの機能は、車両に搭載されたコンピュータが各センサの情報をもとに、関連する装置を制御することで実現されたものだ。コンピュータで全体を制御できるということは、車載各装置の制御が電子化され、かつネットワークで結ばれているということにほかならない。
「昔の工業製品は機械的な接続だけでしたが、今では電気的な接続も欠かせません。むしろ自動車などでは、今やメカでなくコンピュータの方が性能向上における寄与度合いが大きいとされているほど、重要なものとなっています。その結果、製品全体で見れば、各サブシステムが連携し合う“System of Systems”となってきています」とYee氏は語る。
工業製品の複雑化とともに、製品の全体像を見渡すことが困難になってきている。市場投入後に、設計・開発段階では気づかなかったような不具合が発覚することも少なくない。不具合が電子制御プログラムで修正できる内容であれば、既に出回った製品に対するサポートも部品を交換するなどの修理に比べれば容易とはいえ、消費者の品質に対する目は厳しいものだ。
新しいものづくりにおいて、実世界の製造とバーチャルな開発や計画を融合させていくのがPLMの役割だという