広がるITビジネス
日立は、どんな応用を考えているのだろう。電力などのエネルギー関連から自動車関連、建設機械、鉄道関連など幅広い事業を手掛けている同社は、これら事業から得られるデータを生かし、生産性を向上させたり、働き方を変えたり、さらには新しいビジネスをつくり出したりすることに適用できるだろう。IT企業としての事業を展開する日立の情報・通信システム社は、その効果を最大化させる活用を検討している。
IoTは、ITビジネスを広げるだろう。パッケージやクラウドなどのサービスを組み合わせる伝統的なSIを展開する事業は残るだろう。政府やメガバンクの基幹系システムのような一から作り上げていく大規模システムはなくならないだろう。だが、これまでの基幹系システムや情報系システムと異なるIoTは、IT企業だけの事業領域とは必ずしも言えない。
米GEが取り組む産業機器とITを融合する「インダストリアル・インターネット」はその代表例である。日立以上に幅広い事業と大きなシェアを持つGEは、産業機器などから収集したデータを蓄積、解析した結果から機器の故障予兆による保守効率化や航空機の燃費改善などの効果を上げているという。付加価値の高いビジネスも生まれている。
このような解析データサービスを展開する上で、データの持ち方も重要になる。自社で可能な限りのデータを集める手もあるし、所有せずに活用するビジネスもある。交通渋滞など国や自治体が持つデータを組み合わせて使う企業もある。しかも、測れるものが増えている。
人の幸福感を測れるとは、おそらく誰も思っていなかっただろう。それが可能になったら、どんなことに役立たせるのかを考える。例えば、在宅勤務などのテレワーク環境の整備で、社員1人1人の幸福度が上がり、生産性が向上するかもしれない。
日立によると、組織の活性化や生産性向上は幅広い業務に応用できる可能性がある。例えば、住民が住むことで、幸せで健康になる地域医療システム、従業員が幸せになる倉庫業務システムなどが考えられるという。それに必要なインフラやツール、ソリューションなどを提供するだろう。
社内の各事業から得られたデータを他事業に適用したり、連携させたりもできるだろう。ユーザー企業にも応用する。その先に、どんなビジネスが生まれるのか。注目したい。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。