リアルタイムなデータ活用に潜むIoTの可能性--IBM、専任チームを国内に新設

齋藤公二 (インサイト)

2015-07-16 08:00

 日本IBMは7月15日、国内に“モノのインターネット(Internet of Things:IoT)”事業の専門チーム「IoT事業開発推進室」を新設したと発表した。「スマーターシティ・プロジェクト」や「IBM Watson」などのアナリティクスで培った知見やノウハウを生かし、日本企業や国内産業界のIoT技術の活用を支援する。

 IoT事業開発推進室には、専任コンサルタント、ビッグデータや情報管理関連のソフトウェア技術者、研究開発部門の専門家、営業担当者などが所属。主にコンサルティング部門の知識や知見を活用して、IoTの活用を検討する企業に導入コンサルティングや製品などを提供する予定。

 チーム構成の中心となるのはIBM東京基礎研究所などが属する「IBM Tokyo Laboratory」で、ソリューション開発や顧客との協業推進のためにソリューション部隊、デリバリ部隊、営業部隊が組織横断的に参加するという。初年度は、国内で取り組みが先行する製造業へのサービス提供に注力。並行してヘルスケアや流通、保険の各分野で新しいソリューション開発に取り組む。

 日本IBMの取り組みに先行して、米本社は3月に、IoT活用を推進する部門を設立し、IoT分野に今後4年間で30億ドルを投資することを発表した。グローバルレベルでは、「IBM Global IoT Competency Center」を設立し、日本、米国(ローリー、オースティン、リトルトン)、ドイツ、インド、韓国、中国、ブラジルの各拠点でIoT製品とソリューション開発、顧客やパートナーとの協業を推進する体制だ。

 IoT事業開発推進室の設置はこうした動きを受けたもの。グローバルの知見を日本に適用するととにも、国内企業の持つものづくりの知見をグローバルレベルに展開する。

三浦美穂氏
日本IBM 理事 IBMアナリティクス事業部長 三浦美穂氏

 日本IBM理事でIBMアナリティクス事業部長の三浦美穂氏は、IBMがIoT事業に取り組む背景として「データ量が増大しリアムタイム性が高い処理が求められるなか、データをビジネスにどう生かしていくかが課題になった。IoT事業はそれに応えるもの」と説明。IoT関連のこれまでの取り組みとして、日立造船がごみ焼却発電プラントで「燃焼の異常」を検知し、燃焼の安定と最適燃焼値を予測しているケースや、オートバックスセブンが購買データを分析しパーソナライズ化したマーケティングキャンペーンを実施しているケースを紹介した。

 「IoTでは、IBM Analyticsで提供する基盤やツールだけなく、インフラやサービスを含め、有機的に統合したソリューションとして提供する必要がある。得られた成果をソリューションにフィードバックし、ループを閉じる取り組みが大切だ」(三浦氏)

Pat Toole氏
IBM IoT担当ゼネラルマネージャー Pat Toole氏

IoTの先進事例

 IoTに対するIBMのグローバルな取り組みについて、米本社のIoT担当ゼネラルマネージャー、Pat Toole氏は2008年からデータをインテリジェントに活用する「Smarter Planet」を進めてきたことを説明。交通渋滞やプラントの管理など、ビジネスから社会インフラに関するまでの知見やノウハウを蓄積しようと試みたが、当時はまだデータをリアルタイムに収集し活用することが難しかったと振り返った。

 「日々生成されるデータの90%は依然として分析すらされていない。生成されたデータの60%は1ミリ秒以内に価値をなくす。だが、5年前は難しかったリアルタイムのデータ活用が今は生産現場やセールスの現場などあらゆるプロセスでできるようになった。プロセスだけではない。ITと経済が結びついた世界を“Insight Economy”などと呼ぶが、これからはデータからインサイトを得て、ビジネス全体を考え直すことができるようになった」(Toole氏)

 たとえば、航空機エンジンメーカーのPratt & Whitneyは、IBMの予測分析ソリューションを用いて、4000以上のエンジンの状態を1年間モニタリングし、半年後に何が起こるかを97%の精度で予測できるようにした。「5年前は難しかった、こうした取り組みが今は実現できる。故障検知や予防メンテナンス、在庫調整などを行うことで、顧客に対するよりよいサービス提供につなげた」(Toole氏)

 IoTがビジネスをどう変革するかについては、Toole氏は、大きく3つの側面があると指摘した。1つは、イノベーションの加速だ。特にデジタルへの取り組みがイノベーションを加速させるという。2つめは、運用管理能力の強化。リアルタイムに知見を得ることで、ビジネスプロセスが改善する。3つめは、モノとヒトとのつながりを拡大(エンゲージメントの改善)。コストや効率重視のITから顧客とのエンゲージメントを重視するITへと変わる。

 IoTへの取り組みの方向性は大きく4つあるとした。1つは、業界内で新しいビジネスモデルを開発すること。事例としては、Daimlerが取り組むカーシェアリング事業「Car2go」がある。スマートデバイスで車の位置検索や決済が可能であり、自動配車なども視野に入れた新しいビジネスであることが特徴だ。

 2つめは、効率や性能の向上に注目すること。IBMのアプリケーションなどの事例として、複数のパートナーと連携して6000万個のエンジン部品の管理を最適化したAirbusの例を挙げた。

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