シスコシステムズや日本マイクロソフトが相次いで中小企業向け事業の強化策を打ち出した。今、なぜ「中小企業」なのか。そこにIT活用の変化を読み取ることができそうだ。
シスコ幹部が語る中小企業のIT化の必要性
シスコシステムズが9月16日、中小企業向けのネットワーク製品群を発表した。従業員100人以下の企業に適したVPNルータやスイッチ、アクセスポイント(AP)、ネットワークセキュリティ製品を、新ブランド「Cisco Start」シリーズとして打ち出した(関連記事)。
一方、日本マイクロソフトも先頃、中小企業向けにWindowsモバイルデバイスの導入促進を図る施策を打ち出した。新OS「Windows 10」の投入を機に、とりわけスマートフォン市場でのプレゼンスを高めていきたい考えだ(関連記事)。
企業向けIT市場において大きな影響力を持つ両社が、同時期に中小企業向け事業に注力する施策を打ち出したのは偶然ではないだろう。今、なぜ「中小企業」なのか。シスコの発表会見では、説明に立った同社幹部が次のように語っていた。
「IoT(Internet of Things)やデジタル経済の時代に向けて、ITを活用することでコストダウンや生産性を向上し、製造・販売の方法や働き方を変革することにより、中小企業が持つ可能性を最大化することができる」(シスコシステムズ専務執行役員コーポレート事業統括の中島シハブ氏)
「これから成長していく企業は、規模にかかわらずデジタル企業になっていく。シスコはCisco Startシリーズによって、日本の中小企業の成長を支援したい」(米Cisco Systemsエンタープライズインフラストラクチャ&ソリューションズ バイスプレジデントのジェフ・リード氏)
「昨今、企業のIT化ニーズとして高まっているマイナンバー制度やセキュリティへの対策、商取引のグローバル化などは、もはや企業規模にかかわらない要件として、中小企業にも対応が迫られるようになってきている」(シスコシステムズ執行役員マーケティング本部長の鎌田道子氏)
「ビジネスのデジタル化」にどう取り組むか
もう1つ、興味深い動きと発言を取り上げておきたい。それは、今回のシスコおよびマイクロソフトの新しい取り組みにおいて、両社ともにパートナー企業として頼りにするダイワボウ情報システム(DIS)の存在だ。
両社とDISの関わりについてはいずれも上記の関連記事を参照いただくとして、DIS取締役 販売推進本部長兼販売推進4部長兼東京支社長の松本裕之氏がシスコの会見で次のように語っていた。
「当社は中小企業向けのIT事業において、今年度からモバイルデバイスの普及拡大に注力している。今後の中小企業のIT化促進においては、モバイルの活用が大きなポイントになる。それを支えるインフラとして、セキュアで安定したネットワーク環境も欠かせない。その意味で今回のシスコの取り組みは非常に有効なものであり、当社としても全面的に支援し協力していきたい」
DISからすると、「モバイル活用」をキーワードに、今回シスコとマイクロソフトが打ち出した施策を組み合わせた形で、中小企業のIT化促進を図っていく考えのようだ。
あらためて、今、なぜ中小企業なのか。筆者はとくにCiscoのリード氏の発言に注目したい。つまり、これまでの中小企業のIT化は、オフコンやパソコンを導入し、業務ソフトパッケージを利用して、とにかく業務の効率化を図ることが目的だった。
しかし、これからはビジネスそのものがどんどんデジタル化していく中で、企業は規模にかかわらずそれに対応し、むしろITを活用して攻めていかないと生き残れない。とりわけ、中小企業にとっては存亡をかけた戦いであり、うまく取り組めば大きなビジネスチャンスにもなり得る。
今回のシスコやマイクロソフトの動きは、中小企業にそんなメッセージを投げかけているように感じる。さらにDISは、その具体策としてモバイル活用を掲げている。
もちろん、3社ともベンダーなので「商売」ではあるが、その根本にはこれから本格化する「ビジネスのデジタル化」にどう取り組むか、という強い問題意識がある。筆者も、中小企業の経営者にとっても真剣に考えなければならない時期が来ていることを訴えておきたい。
シスコシステムズの会見。左から米Ciscoのジェフ・リード氏、シスコ日本法人の中島シハブ氏、DISの松本裕之氏、シスコ日本法人の鎌田道子氏。