EC向け決済ツールの進化
上述のスマートフォンの世界で起きたカード決済の変化は、電子商取引の世界においても別軸で展開されている。その中でも最もビジネス面での勢いのあるStripeをここでは紹介する。
同社は2010年に設立された、インターネットサイトの開発者向けに決済プラットフォームを提供する会社である。同社の特長は、サイト提供者にとって開発しやすいシンプルなコードで構成されており、デザインが美しい、という当たり前とも思える点にある。
しかしながら、世界中のさまざまな支払手段に対応したことや、TwitterやFacebookなどの画面で即時決済を提供するツールを開発したことで、ユーザーが購入する際の迷いを排除し、個別のサイトにおける売り上げ自体を伸ばす効果が評価されている。
オンライン販売を行う事業者にとって、スムーズな購入経験は生命線である中、顕著なビジネスの成長もあり、直近の資金調達においては約50億ドル(約6250億円)という評価だったと報道されている。
日本では、GMO Payment GatewayがECサイトなどに組み込む決済手段としては圧倒的なシェアを誇っている。一方で、日本初のプレーヤーとしては、開発者向けに特化しつつ、よりセキュリティに関する特性を打ち出しているWebPayなどが、同様のビジネスを展開している。
決済の枠を超えたサービス提供へ
このように、Squareなどのプレーヤーは、社会的にも新規事業の立ち上げを促進し、買い手/売り手に関わるコストを下げるという、大きなメリットを提供してきた。一方で、ビジネスモデルの模倣が可能であるため、プラットフォームビジネスとしての競争が苛烈となっていることから、複数の限られたプレーヤー間での価格低下圧力が働いている。
結果として、潜在的な成長率への評価は高い一方で、足元の収益性という観点では道半ばという評価も見られることが多い。
しかし、このような評価は、カード決済が有する貴重なデータの活用という側面を見落としているともいえる。一例を挙げると、カード決済事業者は、売上や資金回収に関する情報に最も早く接することができるプレーヤーでもあり、このようなデータをベースに収益源とすることが可能となっている。
例として再度Squareを取り上げると、同社はSquare Capitalという子会社を通じて企業の運転資金の融資を行っている。現状では一定以上の売り上げがある商店が対象となっているが、売掛金に対する融資を得る手段として、急速に利用が広がっている。
また、Squareは同社を利用するタブレット端末を通じて給与計算のサービスも提供しており、決済のみならず、総務の仕事も部分代替する動きが見られている。カード決済を実施する端末は、同時にレジとしての機能も備えることから、今後はさらなるビッグデータの活用を通じて、顧客情報の管理や、マーケティングといった付加価値にもつなげていく可能性が示されている。
キャッシュレス化社会を見越して
2020年の東京五輪・パラリンピック開催を前に日本では、政府主導でキャッシュレス決済に向けたイニシアチブが進んでいる。従来からもおサイフケータイが普及してきた中で、今後、デビットカードやクレジットカードに加えて、Apple Payなどの新たなモバイル決済手段の導入が行われていくなか、少額決済における電子化は従来とは異なるスピード感で進むことが期待される。
日本は他の先進国とくらべても決済に占める現金選好が非常に高いため、クレジットカード/デビットカードの潜在的な活用余地は大きいと思われる。決済インフラの変化は、Fintechのみならず、日本の商慣行のあり方を根本から変えていく可能性のあるテーマといえる。