三国大洋のスクラップブック

「AI研究者集め」がロボットカー開発のボトルネックになる可能性について

三国大洋

2015-12-05 07:30

 11月初旬、日本が関係するロボットカーやドローン関連の大きなニュースが相次いで出ていた。安倍首相が「ロボットカーやドローンの実現」に向けて規制緩和の意向などを示したかと思えば、その翌日にはトヨタがシリコンバレーに人工知能(AI)の研究拠点を開設すると発表したといった具合に、いずれも大きなニュースだから、いろんなところで報じられていたかと思う。

シリコンバレー有数の研究機関になるトヨタのAI研究新拠点

 後者のトヨタに関するニュースについては、「5年間で10億ドル」という金額に驚いた人もいたかもしれない(私はそうだった)。いっぽう、トヨタが9月はじめにAI関連の研究に5000万ドルを投資すると発表していたことや、10月には高速道路でのロボットカーの運行実験を撮したデモ映像を公開していたことなどを踏まえて、この発表を「想定内のこと」と感じた人もいたかもしれない。

 なお、この新拠点——「Toyota Research Institute」の責任者には、以前に少し紹介したGill Pratt ——「鉄人28号」が好きな、例のDARPA Robotics Challengeの元責任者が就任するという。

 この新研究センター設立というニュースは、当方でふだんから定点観測している米国の媒体でも比較的大きく扱われていた。「ロボット/AI」「シリコンバレー」「Toyota」という3つの要素がそろったから、当然といえば当然かもしれない。またいつもはApple、Google、Facebook、Tesla、それに新しいベンチャー企業などの動きをカバーしている連中にとっても、これは「地元の話」でもあり、その分身近な話、あるいは特別な重みがある話と受けとめられているのかもしれない。

 シリコンバレーにはBMW、Ford、現代、Audiといった各社が研究拠点をすでに構えているそうだ。日産が今年はじめにロボットカーのデモ走行をやっていたのもやはりシリコンバレーにあるNissan Research Centerという研究拠点で、ここの責任者のMaarten Sierhuisという人物(NASAやXerox PARCでAI研究者)は先月にあったCodeカンファレンスに登場して、「『餅は餅屋』でGoogleやUberあたりは自動車づくりを自動車メーカーに任せておくほうがいい」などと発言していた(*3)。

 以前からロボット分野の記事を書き続けてきているNYTimesのJohn Markoffは、

今回のトヨタの発表に関する記事のなかで、「シリコンバレーにAI研究の拠点を置くことにしたのは、この主の仕事(AI・ロボット研究のこと)に携わる人間の密集度が世界中のどこよりも高いから」というGill Prattのコメントを引用している。

 また、Markoffが「トヨタの新拠点はシリコンバレーでも最大規模の研究機関のひとつになる

 として、かつてのXerox PARC(Palo Alto Research Center)を引き合いに出しているのも面白い。

 もちろんTRIでの研究対象は自動車分野だけというわけではない。トヨタも前からそう言っているし、PrattもIEEE Spectrumとのインタビューの中では介護関連など屋内での移動に関する事柄についてもかなり多くのことを話していた。

 この点について、今回比較的詳しく伝えていたのがThe Verge記事で、下掲の動画などとともに、「高齢化の問題は米国にとっても他人事ではない。今後30年間に65歳以上の人口が全体の40%に達する日本ほどではないけれど、米国だって2030年には約5人に1人が65歳以上という日がやってくる」などと書いている(*4)。

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