ハイテクで巧妙化する中国のマルチ商法

山谷剛史

2016-07-26 07:00

 現地時間7月1日、中国工商総局は微信(WeChat)を利用したマルチ商法の禁止を目的としたネットワーク販売の改善令「関于進一歩做好査処網絡伝銷工作的通知」を発布した。微信でのマルチ商法についてのニュースは2013年から確認でき、2014年には「マルチ商法が蔓延している」というニュースも確認出来るので、今になって通達を出すのは、スピーディーな中国としては、少々遅い感がある。

 中央のテレビ局「中国中央電視台(CCTV)」の報道によれば、中国ではこうした悪徳商法に1000万人以上が携わっていて、数千億元(1元=16円)市場規模になっているという。よく使われるツールは騰訊(Tencent)のインスタントメッセンジャー「微信」だ。こうしたツールでつながった人同士の人脈が利用され、商品情報を拡散させてゆく。

 過去にはCCTVが、微信を舞台としてニセフェイスマスクを売る人が増えていること報じたり、微信のマルチ商法の現場に潜入し参加者が洗脳される様子を報じた。CCTVが睨めば企業は平謝りするものだが、1000万人ともいわれる個人が拡散している状況では、CCTVが注意喚起をしても改善しないようだ。

 「アジア催眠大師」「微信で月100万元の収入」を自称した陳志華という人物は、微信におけるマルチ商法の初の逮捕者だ。2013年1月から2014年3月までの15カ月間で、北京・上海・広州などの10数都市でレクチャーをし、59800元の上納金でビジネスに参加することができると訴え、329人から461万5364元の違法収入を得て、2015年5月逮捕された。

 ニセフェイスマスクなどの利益率の高いニセ美容製品は、マルチ商法ではよく利用される魅力的な商品だそうだ。また「ECサイト」「無料でビジネス可能」「ネットで創業」「ネット賭博」「効き目のある健康食品」といった単語を入れると、より多くの人がひきつけられるという。

 おいしいビジネスだと周囲に思い込ませるには「これだけ多くの人に支持されている」という証明が必要となる。これには微信チャットログ生成器や、電子マネーの「支付宝(Alipay)」「微信支付(WeChatPay)」のログ生成器を活用し、「過去にお客様と、こういうやりとりをして商品を購入してもらった」と、ニセのチャットログと購入ログを見せて客を引き寄せる。微信にある、スマートフォンを振って近所の利用者とつながる機能と、GPS偽装ツールを活用して、大勢の人に一斉に営業メッセージを発信するところから、客への声掛けが始まる。このように今どきの悪徳商法は、チートツールも駆使して相手を説得し傘下にする。

 悩ましいのは、明らかな悪徳商法と、微信を使って商品を販売(「微商」と呼ぶ)の線引きが曖昧であることだ。微商もまた正規商品を大元から商品を仕入れた個人が商品を販売している。取引する相手が、微商か悪徳商法なのかは多くの消費者にとって区別のしようがない。騰訊はどういう判断基準があったのか、7月に微商向けのショップ「微商城」3000店舗を突然一斉閉鎖して、微商らを困惑させた。

 CCTVをはじめ多くのメディアで継続した注意喚起を行うことで、「中国でのECは信頼が大事」とばかりに、まともな微商も悪質業者もひっくるめてC2C(個人対個人)から離れて、B2C(企業対個人)に移っていくだろうと多くの中国メディアは分析する。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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