「アジアのリーダーになる」。モバイルアプリケーションの開発環境をクラウド上で提供するアシアルの田中正裕代表取締役は、意気込みを語る。ウェブアプリケーションからモバイルアプリケーションまで使える共通のクラウド上の開発環境を、世界のIT技術者に採用を働きかけている。
技術者に最新技術動向を伝えるアシアル
中高生のころからフリーソフトウェアを開発するなどプログラミング好きの少年だった田中氏が2002年7月、東京大学3年生の時にIT企業を設立する。社名をAsial(アシアル)としたのは、アジアのリーダーとして、世界で戦えるIT企業になるとの思いを込めてのこと。「アジアの中で、欧米IT企業より先んじて存在感を持つ」。
そんな思いでビジネスを立ち上げた田中氏はまず、カナダで発行されているウェブアプリケーションの作成に適するプログラミング言語PHPの専門誌の翻訳をはじめた。「日米に情報のギャップがある。今もそうだが、重要な情報がなければ、いい仕事はできないし、いい仕事につけない」。日本の技術者がより良い仕事を手掛ける上で、PHPなどの最新技術動向を知ることは欠かせないということ。PDFで発行した翻訳電子版は技術者から好評で、読者は着実に増えていった。
アシアルはこうした書籍を出したり、セミナーを開いたり、ポータルサイトから情報を発信したりしてきた。ユーザー企業からモバイルアプリの開発を請け負うこともあったが、社員20人を超えた2011年ごろから次のビジネス展開の検討を始めた。結果、自社商品の開発を決断し、2013年9月にモバイルアプリ開発プラットフォームMonaca を正式リリースした。クラウド上の開発環境を使って、iOSやAndroidなどのモバイルアプリを開発するもの。
Monacaの特徴はOSごと、端末ごとに異なる開発環境を用意する必要がないこと。既存のウェブ技術のスキルセットを使えるので、利用者が着実に増えたという。現在、利用者は累積約15万人、作成されたアプリは6万本超にのぼる。マーケティングを担当する塚田亮一取締役によると、最近は海外の利用者が増えており、累積で全体の2~3割、新規だけで4割になるという。
実は、Monacaのベータ版の発表は2012年3月、シンガポールの開発者向け展示会で行った。その後、サンフランシスコや北京の展示会に参加するなどし、どこに市場があるのかも探った。今も海外の展示会やコンファレンスに出展し、商品説明会を開催したり、技術者らとの交流を通じて、悩みや開発環境の改善などについての意見を聞いたりしている。
田中氏によれば、海外市場で販売を伸ばす上で、フリーランスの技術者に対して、Monacaのプレゼンスを上げることが重要になる。モバイルアプリの開発工数は5人月、大きくても10人月程度で、フリーランスの技術者が中心的な役割を果たしているという。
つまり、彼ら、彼女らに使ってもらえるかが、普及に大きく影響する。「技術者は自分が責任をもてるものを使う。下手なものは選ばない」(田中氏)。アシアルが海外の開発コミュニティ活動に参加する理由は、ここにある。
一方、日本市場で開発環境などを選択するのは、ユーザー企業の管理職になる。ソフト開発会社の場合もあるが、いずれにしろ技術者個人が「素晴らしい」と説いても、上司が認めない限り社内の標準環境に採用されない。そこで、アシアルは「こんなアプリが開発された」、「こんなユーザー企業にも採用された」などといったマーケティングに力を入れ始めたところ。