展望2020年のIT企業

“ニューIT”インテグレータを目指す新興IT企業 - (page 2)

田中克己

2017-02-27 07:30

M&Aなどで1万人規模へ拡大

 新規顧客の開拓にも力を入れる。“ニューIT”のプレーヤーとの協業で、彼らが発掘した見込み客を紹介されることもある。その視点は新しいテクノロジーを使って、現場の生産性向上を実現させること。福留社長は、東京メトロの地下鉄トンネル点検アプリケーションを例に説明する。この案件はIT部門ではなく、工務部門からの依頼で、終電から始発までの数時間内に、効率的にトンネルの点検・保守作業をこなし、報告書を短時間で作成するというもの。

 このような現場の業務課題を解決したり、生産性向上に図ったりする現場のIT化に欠かせないのは、顧客と生産性向上の指標、基準を決めること。投資効果を明確にするためで、「IT企業に説明責任がある」(福留社長)。意思決定の速さも、チェンジの強みだという。「大手は企画から実現まで3カ月かかるが、当社は1日だ。私が『いけるかもしれない』と思ったら、やらせる」(同)。大手の経営者は、容易にリスクをとれないからだろう。

 “ニューIT”インテグレータを目指すチェンジは当然、新しいテーマに挑戦する。「似たようなプロジェクトをこなせば、当社の生産性は向上するが、今は営業利益率10~15%程度にコントロールし、売り上げ拡大を図る」(福留社長)。ちなみに、2016年9月期の売上高は15億5000万円、経常利益は1億7500万円、2017年9月期は売上高18億円、経常利益2億円を見込んでいる。1人当たり売り上げも約3000万円程度である。

 売り上げ拡大策の1つは、取り組む技術領域を広げること。特に、AI(人工知能)やAR(拡張現実)/VR(仮想現実)、自動運転など生産性向上に貢献するもの。もう1つは、顧客基盤を広げること。「運輸や金融、公共機関の顧客は約200になったが、さらに深堀する」(福留社長)。たとえば、「人口予測データを政策立案に活かすといった官公庁の先頭を走るようなシステムを提案したい」(同)。働き方改革へのデータ活用もあるだろう。

 ビジネスの拡大に向けて、人材も増やす。社員は現在、約55人(2016年12月)だが、「いずれ1万人規模にし、業界でそれなりのポジションをとりたい」と福留社長は意欲的だ。そのためM&Aも視野に入れており、伝統的な受託ソフト開発会社のビジネスモデルを再定義し、PM人材の育成なども考えている。

 「SEの仕事は生産性を向上させたり、仕事のやり方を変えたりするもの。彼らの価値を上げて、尊敬されるようにしたい」(同)。買収候補は、創業30~40年の数百人規模の受託ソフト開発会社や、成長の見込めるテクノロジーを持つIT企業など。

 福留社長は「ITが人の働き方を変え、生産性を革新する100年に一度のブレークスルー」と確信し、“ニューIT”を徹底的に活用するビジネスを推し進める。それに応えるIT業界への再編を促すことにもなるかもしれない。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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