日本経済の発展に貢献するベンチャー企業は数多くあるはずが、大手企業が彼らの成長や活躍を阻むことがある。そんな中で、情報家電や電子部品、IT機器などを手がける大手企業で構成する電子情報技術産業協会(JEITA)がこのほど、そんなベンチャー企業を表彰するJEITAベンチャー賞の受賞企業6社を発表した。今回で3回目になる。狙いの1つは、新規事業を創出したい大企業とベンチャーとの協業推進にある。
JEITAベンチャー賞の狙い
JEITAベンチャー賞を受賞した1社は、2012年7月に設立した産業技術総合研究所発ベンチャーのHmcommである。産総研の音声認識処理や自然言語処理などの技術を用いて開発した音声認識に特化したAIプラットフォームによるソリューション・サービスは、コールセンターや窓口など対人業務における会話のテキスト化や、無人の音声受付などを実現するもの。同賞の審査委員会委員長を務める荒川泰彦氏(東京大学生産技術研究所教授)は「今後、音声ビックデータのビジネスリソースとしての利活用への貢献が期待される」と、受賞理由を説明する。
2社目は、セキュリティ・ソリューションを展開するZenmuTechだ。2014年3月設立の同社は、暗号化技術と分散技術を組み合わせた秘密分散処理により、データを意味のないデータに変換・分割する情報漏洩防止ソフトなどを開発した。従来の暗号化技術は解読される可能性があり、「サイバー攻撃に対して、強い防衛手段になる」(荒川氏)。同社によると、住宅設備機器大手のLIXILなどに採用されるとともに、大手ITベンダーにOEM供給しているという。
3社目は、青森県青森市に本社を置く2005年3月に設立したファルテだ。NTT出身の葛西純社長らが開発した骨伝導ヘッドセットは、スマートフォンとBluetooth接続し、通話や音楽を聴いたりするもの。自転車用ヘルメットタイプや産業用タイプなどを用意する。GPSや各種センサを使った車両などを管理したりする位置情報ソリューションもある。温度センサなどのデータと車両の位置情報などから製品の在庫・稼働率管理に使う。トレーラーの管理、工場の無人搬送車の監視などに利用されており、「地方発からEXITを目指すベンチャーのロールモデルとして期待される」(荒川氏)。
4社目は、ディープラーニング・ベースのAIプラットフォームとソリューションの開発に挑むABEJAだ。受賞対象は、2012年9月の創業時から取り組むディープラーニングなどを活用した小売業向け店舗解析ツールになる。カメラ画像から顧客の数、年齢、店舗内導線などを分析し、店舗改善につながるもの。この2月には、AIをビジネスに適用するために必要なデータの取得、蓄積、学習など10の工程を備えているAIプラットフォームの提供も開始した。多くのパートナーとの協業も進める考えだ。2017年5月には、画像処理半導体の米エヌビディアから出資を受けている。