工事進行基準が原則適用となる「工事契約に関する会計基準」が、この4月1日以後開始の事業年度からいよいよスタートとなった。この連載では、工事進行基準適用のために必要となる要件や対応のポイントをまとめてきた。今回は、その前提となる“個別原価”計算に焦点をあて、制度上求められる原価計算の内容と実務対応の要点をまとめる。
本当に「原価計算はできている」か?
工事進行基準の適用に伴い、従来とは異なる高度なプロジェクト管理体制が求められることはこれまでにも解説してきた。ドンブリ勘定であった企業が工事進行基準を適用する場合、「成果の確実性」を満たすための要件を整えるために困難を伴う場合が多い。その要因のひとつが、今回のテーマである適切な個別原価計算制度の構築である。
たとえば「原価計算はできている」という企業の話をよく聞いてみると、原価計算基準に準拠した形での単価設定や製造間接費の配賦が行われていない、といったケースも見受けられる。経営管理の視点からの原価計算を行っている、という意味では無意味とは言い切れないが、工事進行基準の適用のために財務会計と管理会計の整合が求められる以上、これらを満たす個別原価計算を実施していく必要があろう。そこで今回は、「原価計算基準」に基づく個別原価計算の手法をまとめる。
「原価計算基準」本文によると、原価計算の目的として、以下の5つが挙げられている。
- 企業の出資者、債権者、経営者等のために、過去の一定期間における損益ならびに期末における財政状態を財務諸表に表示するために必要な真実の原価を集計すること
- 価格計算に必要な原価資料を提供すること
- 経営管理者の各階層に対して、原価管理に必要な原価資料を提供すること。ここに原価管理とは、原価の標準を設定してこれを指示し、原価の実際の発生額を計算記録し、これを標準と比較して、その差異の原因を分析し、これに関する資料を経営管理者に報告し、原価能率を増進する措置を講ずることをいう
- 予算の編成ならびに予算統制のために必要な原価資料を提供すること。ここに予算とは、予算期間における企業の各業務分野の具体的な計画を貨幣的に表示し、これを総合編成したものをいい、予算期間における企業の利益目標を指示し、各業務分野の諸活動を調整し、企業全般にわたる総合的管理の要具となるものである。予算は、業務執行に関する総合的な期間計画であるが、予算編成の過程は、たとえば製品組合せの決定、部品を自製するか外注するかの決定等個々の選択的事項に関する意思決定を含むことは、いうまでもない
- 経営の基本計画を設定するに当たり、これに必要な原価情報を提供すること。ここに基本計画とは、経済の動態的変化に適応して、経営の給付目的たる製品、経営立地、生産設備等経営構造に関する基本的事項について、経営意思を決定し、経営構造を合理的に組成することをいい、随時的に行なわれる決定である
ひとつずつ内容を見ていこう。
まず1.は財務諸表作成のため、言いかえると財務会計上、個々のプロジェクトや製品の製造原価を集計して売り上げと売上原価を対応させ、財務諸表を作成するために原価計算が必要であるということになる。それに対して2.と3.は各プロジェクトや製品の製造原価を把握・管理し、プロジェクトや製品ごとの利益を確保していくためのものであり、4.と5.については、個々のプロジェクトや製品の原価管理や利益管理をベースにした、もう少し大きな視点での全社的な予算実績管理や意思決定のためのものとして定められているのである。
つまり、財務会計においても管理会計においても有意義な原価計算制度が、本来の趣旨における原価計算ということができる。では、個別原価計算の具体的手法として、「原価計算基準」ではどのように定められているのであろうか。
個別原価計算の3ステップ
個別原価計算とは、最終的に各プロジェクトまたは製品のコストがいくらかかったのかというプロジェクトごとの製造原価を求める計算プロセスのことである。この計算ステップでは大きく費目別原価計算、部門別計算、製品別計算――という3段階の計算プロセスを経て行われる。間接部門の費用や、販売・管理のための費用は、製造原価ではなく販売費・一般管理費となるため、ここでは各プロジェクトには集計されないことに留意が必要だ。また、原価計算は基本的に1カ月単位で実施される。
(後編は5月8日掲載予定です)
筆者紹介
木村忠昭(KIMURA Tadaaki)
株式会社アドライト代表取締役社長/公認会計士
東京大学大学院経済学研究科にて経営学(管理会計)を専攻し、修士号を取得。大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務・法定監査業務を担当する。
2008年、株式会社アドライトを創業。管理・会計・財務面での企業研修プログラムの提供をはじめとする経営コンサルティングなどを展開している。