企業変革のツボはどこにあるのか--アルコアから学び、フォクスコンを予測する - (page 3)

三国大洋

2012-04-17 16:47

フォクスコンの「ツボ」はどこに

 このアルコアにまつわる「事故ゼロ」のエピソードを思い出したのは、3月末にアップルと中国フォクスコンがFLA(フェア・レイバー・アソシエーション)の監査結果を踏まえて、工場労働者の条件・環境改善計画を発表した際のことだった。

 残業時間の短縮と抑制などを盛り込んだこの改善策に対しては、給与の伸びしろが減じた格好の労働者の間から、さっそく「私たちは遊びにきてるわけじゃない」といった声も上がっているという話が伝えられていた(註5)。

 単調な作業の続く製造ラインで「何年間かがっつりと働いて、その後は貯めたお金を元手に故郷にもどって自分の会社や商店などを始める」といったプランを想定している現場の若者たちには、多少は無理してでも稼げるときに稼いでおきたい、という想いがあっても不思議はない(註6)。

 だとすると、賃金引き上げは労働者の満足度向上につながりこそすれ、大きく組織を変え得るツボとしてはいささか弱い(異なる立場のステークホルダーの利害が一致="align"しないという点で)。また、フォクスコンの賃金はまわりの相場よりもすでに高めで、労働者の口から出る不満でいちばん多いのは「上司のえこひいき」だった。加えて「単調(退屈)すぎる作業」への不満も多いと、最近フォクスコン工場内に入って現場などを取材したMarketplace上海支局のロブ・シュミッツ(Rob Schmitz)は記している(註7)。


Inside Foxconn: Exclusive look at how an iPad is made

 また、NYTimes特集記事のなかでも採り上げられていたiPad製造ラインの粉じん爆発事故など、安全に対することがらも思い浮かぶが、溶けた高熱の金属を扱う作業もあるアルミ工場での話が、現代のガジェット製造ラインにそのままあてはまるかどうか……。

 いっぽう、フォクスコンの経営側にも、ある種の踊り場に来ているとの認識——いつまでも安い賃金(人件費)をあてにした労働集約型の事業を続けていられないという思いがあっても不思議ではない。(次ページ「変革に使える時間が短くなっている」)

註5:フォクスコンの改善案に対する労働者の反応

"We are here to work and not to play, so our income is very important," said Chen Yamei, 25, a Foxconn worker from Hunan who said she had worked at the factory for four years.

"We have just been told that we can only work a maximum of 36 hours a month of overtime. I tell you, a lot of us are unhappy with this. We think that 60 hours of overtime a month would be reasonable and that 36 hours would be too little," she added. Chen said she now earned a bit over 4,000 yuan a month ($634).

Apple supplier Foxconn cuts working hours, workers ask why


註6:稼げるときに稼ぎたい

Xu sends the equivalent of 3,000 U.S. dollars a year to his family in rural Hubei province. After three years here, he says he’s ready to go home next year. He thinks he’s saved enough to start his own construction business back in his home village; something small, he says, that’ll make him a little more money -- a little more money than what his parents made as farmers.

Reporter's Notebook: From both sides of the gates of Foxconn

なお、ロブ・シュミッツ記者はアップル(フォクスコン)中国工場問題を告発する1人劇「The Agony and The Ecstasy of Steve Jobs」などで注目を集めていたマイク・デイジー(Mike Daisey)の「脚色」(事実に基づかない誇張)を暴いて一躍名をあげたジャーナリスト。


註7:工場労働者のリアルな不満

One of the most common complaints I heard: being treated unfairly by immediate supervisors. Some workers complained about being forced to work even though they were sick. Others said their supervisors didn’t let them bill the overtime they had actually worked. From dozens of interviews, favoritism seems common among Foxconn supervisors.

Reporter's Notebook: From both sides of the gates of Foxconn

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