「アップル製テレビ」という幽霊

三国大洋

2012-06-08 12:45

 今回はテレビの話を書きたいと思う。

 「出るぞ、出るぞ」と言われながら未だ姿をみせていない、あるいは正体を見れば「枯れ尾花」となるかもしれない、例の「アップル製テレビ」という幽霊についてである。

 先週開催されたAll Things Digital(ATD)の「D10」カンファレンスには、既報の通り、アップルのティム・クックCEOが目玉ゲストとして登場。予想の通りまったくそつのない受け答えぶりで、お約束のように出てきたテレビに関する質問(製品投入の可能性など)にも、「強い関心がある分野」といった模範解答——しかしながら、今後なにか具体的な製品やサービスを出すかどうかといった肝心の点については「上手にはぐらかして終えた」という印象だった。

 それでも、たとえば「アップルは道楽で何かをするような会社ではない(そのことは皆さんもよくご存じのとおり)」とか、俗に「ホッケーのパック」ともいわれる現行の「Apple TV」と関連事業について、「5つ目の事業の柱というにはまだ程遠い状況で、iPhoneやMac、iPod/iTunesの音楽関連、それにiPadの各事業とは売上規模がまったく異なる」など、なんらかの手がかりとなりそうな発言もいくつかあった(註1)。

 ちなみに、このApple TV関連の売上規模や利幅などについては、この連載でも何度か紹介したことのあるブログ「Asymco」のホレス・デディウ氏が、かなり手間をかけて試算している(註2)。

 次のグラフはこの試算を記したブログ記事のなかに出てくるものだが、Apple TVのハードウェアの売上は2011会計年度通年でだいたい3億440万ドル。これにコンテンツ(映画やテレビ番組の販売・レンタル)を加えても合計で7億ドル強にすぎず、たとえクックCEOが言っていたとおり「今年は前年の倍近い勢いで売れ行きが伸びている」としても、2012年度の売上見込みは12億ドル程度に過ぎないという。なお、2011年度の約7億ドルという売上は、iPad用の例の「Smart Cover」のそれとほぼ等しい額だという。

 いずれにしても、1四半期に400億ドル以上も売上を記録するようになった今のアップルにとっては「小数点以下」ともいえそうな規模である。

出典:Asymco 出典:Asymco「Beneath contempt: The Apple TV business model
※クリックで拡大画像を表示

 それに対し、逆に「だからこそとても大きな伸びしろがある」というのがアップル製テレビ(テレビモニター製品)登場論者の言い分だ。その代表格に、4月のはじめに「2〜3年後にアップル株式1000ドル」のターゲット予想をぶち上げて以来、証券アナリストとしての自分の株を上げている感のあるジーン・マンスター氏がいる。

 マンスターは、もともと「アップル番」の常連としてBloombergなどでよくコメントを引用されていたアナリストだが、4月半ばにはBusinessweek誌で彼個人に焦点をあてた記事が出たほか(註3)、最近ではForbes誌で同誌編集長のスティーブ・フォーブズ氏と「差し」で対談した記事も掲載された(註4)。

Apple to Release TV in 2013 1st Half, Munster Says

 そんなマンスターは、アップルのテレビ市場参入について「2009年から予想していた」とのことで、上掲のBloomberg Westとのインタビューでも「アップルがテレビ開発を進めているのは間違いない」と断言。また、Forbesでの対談でも、いま問題なのは「本当にアップルからテレビが出るのか?」ではなく、「どのタイミングで出るのか?」だと述べている。

 そのマンスターが予想する「アップル製テレビ」のイメージについては、すでに一部で報じられており、また先のBloombergとのインタビューでも冒頭に次のような箇条書きがみられる。

  • 今年12月に発表
  • 来年(2013年)出荷
  • 価格は1500〜2000ドル
  • iPhoneやiPadから操作可能
  • 音声認識「Siri」による操作も

 さて。

 マンスターのような「テレビモニター登場論者」の言い分に対しては、やはり懐疑的な見方も出ている。(次ページ「Apple TV:たった99ドルのトロイの木馬」)

註1:ティム・クックからのヒント

Apple CEO Tim Cook in the Hot Seat at D

下記はやりとりの一例(上記ライブログの一部):

7:06 pm: Kara turns to another topic: TV. Steve Jobs talked a lot in his last appearance here about wanting to change TV.

Cook notes that Apple has stayed in the Apple TV business, even without a huge hit.

"We're not a hobby kind of company, as you know.” The company tends to put a lot of wood behind a few arrows. "We've stuck in this.”

"It's not a fifth leg of the stool. It's not of the same market size as the phone business or the Mac business or the music business or the tablet business.”

Apple sold 2.8 million Apple TV devices last year, and has sold nearly that many in the first few months of this year.

"This is an area of intense interest for us,” Cook says. "We are going to keep pulling the string and see where this takes us,” Cook says.


註2:AsymcoによるApple TVの試算

Beneath contempt: The Apple TV business model


註3:Businessweek誌が掲載したジーン・マンスターのレポート

Gene Munster Says Apple Is Going to $1,000


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