懐疑的な見方のなかでも、「そんなに高いテレビがいまどき売れるのか」という意見は一番よく見かけるものだ。
とくに、アップルの粗利率(全体で40%台なかば、iPhoneに至っては推定5割以上)を維持していくこと、そして一流ブランドの製品でさえ1000ドル前後(40インチ〜)のものが珍しくなくなった昨今、「当然それくらいのマークアップをしないと」というある種の「原価積み上げ式」で出された価格設定に対して、「あまりに価格の開きがある」あるいは「どうやればそれだけの(価格差を正当化できる)付加価値を持たせられるのか」などの疑問が出ており、これはエンドユーザー=消費者の生活実感からいっても至極まっとうな疑問に思えもする。
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そこで次に問題となるのは、やはり「アップルがビジネスモデルをどう工夫するか」という点だ。この方向性の考え方としては、2月はじめにピーター・ミセク氏というやはり常連の「アップル番」アナリストが、「iPhoneで成功したやり方を真似て、アップルはテレビ市場の参入にあたり固定線の通信キャリアと組んでケーブルテレビ事業者に攻勢をしかける」という可能性を発表していたが(註5)、最近ではこうした見方はあまり目にしない。
いっぽう、前述のホレス・デディウ氏などは、まだそれほど真剣に捉えられていない現行のApple TVこそ「破壊的イノベーションをもたらす要因として面白い」「これまでハードウェアの販売でマネタイズしてきたアップルにとって、ハードは薄利多売し、別の収益源から利益を生み出すというのは新しい挑戦」といった別の見方を以前から示しているものの、「では具体的にどんなビジネスモデルであれば、iPhoneもしくは最低でもiPad程度の規模まで事業を拡大できるのか」という肝心の点については、まだはっきりした考えを示していない(註6)。
Apple TV:たった99ドルの「トロイの木馬」
ところで。
ある程度年配の読者の中には「ジェレミー・アレイア」という名前に見覚えのある方もいるかと思う。1990年代、若い頃に立ち上げたコールド・フュージョンという会社を後にマクロメディアに売却、一時は同社のCTO(最高技術責任者)を務めた経歴の持ち主だ。現在は、やはり自分たちで興したオンラインビデオ配信サービスを提供する上場企業のブライトコーブでCEO(最高経営責任者)となっている。
そのアレイア氏がアップル製テレビの可能性に触れた長いエッセイをATDに寄稿していた(註7)。
米国時間6月4日に公開されたこのエッセイは、「アップルのテレビ、AirPlay、そしてiPadが新しいテレビ向けアプリのプラットフォームである理由」("Apple Television, AirPlay and Why the iPad Is the New TV Apps Platform")というタイトルが示す通り、ソフトウェアを核にしたエコシステム(あるいはプラットフォーム)こそ、これからのテレビ関連事業の成否の鍵を握るという主旨の文章だ。
同時に「CNNやMLBなどの名のあるテレビ局(コンテンツ制作・配信元)は、それぞれが何万とあるiOSアプリの一つにすぎなくなる」「テレビモニターの位置付け自体も、アプリの単なる表示用画面の一つに変わる」「アップルはケーブルテレビ事業者と共存していく道を選び、ネットフリックスのような立ち場になる可能性は低い」などという、見方によってはかなり過激に思える予想も描かれている。
そして、この一見突拍子もない考えにそれでも「一理あるな」と思えるのは、それが「ユーザーとしての実体験に裏付けられたもの」と感じられるからだ。(次ページ「Apple TVがもたらす変化は無視できない」)
註5:ピーター・ミセク氏の見方
註6:ホレス・デディウ氏の見方
註7:アレイア氏がATDに寄稿したエッセイ
Apple Television, AirPlay and Why the iPad Is the New TV Apps Platform