これまで、2回にわたってマイクロソフトのタブレット端末「Surface」を解説してきた。
前々回は「再び主戦場に降り立つマイクロソフト」でSurface開発の背景を、前回は「戦闘から戦争へ」としてマイクロソフト、アップル、グーグルの戦いが今、同時多発的に複数の線戦で交戦する総力を挙げた戦い——つまり「戦争」の様相を呈していることを示してきた。
今回はさらに論考を進めたい。アップルがiPhoneとiPadで先導する「ポストPC時代」への流れに「BYOD」が合流すると、マイクロソフトの『制空権』がどんどん狭まっていく可能性があることを示していく。そして、マイクロソフトがこの事態に対して手をこまねいているばかりではないことも紹介しよう。本格的なポストPC時代を前に、マイクロソフトはリビングルームに「Xbox」という拠点を持っているからだ。
「400ドルで売れるタブレットなら……」と指摘したAsymco
本連載でも過去に何度か紹介したAsymcoのホレス・デディウが、「Surface投入」という思い切った決断の背後にあったと考えられるマイクロソフトのある思惑を、数字の分析から導き出している。前回の原稿で触れた通り、ジョン・グルーバーやジャン・ルイ・ガセーも注目している、ちょっと面白い推察だ。
Who will be Microsoft's Tim Cook?
このエッセイについては、WirelessWire Newsに抄訳(ほぼフル翻訳に近い形)を掲載しているので、詳しく知りたい方は是非そちらをご覧いただきたい。
このグラフは、Asymcoが考察のベースにしているマイクロソフトの事業別の売上(上)と営業利益の推移だ。スタート時期が2007年第3四半期となっているのは、アップルなどが主張する「ポストPC時代」(Post-PC Era)の本格的な始まりとなったiPhone投入(2007年6月末)を踏まえたもの(註1)。2009年秋の「Windows 7」投入後に一時的な跳ね上がりが見られるが、全体としてはデディウが指摘するように非常にゆっくりとしたペースでの成長という流れが読み取れる(註2)。
ここでデディウが着目しているのは、マイクロソフトにとっての2つの「金の卵を産むメンドリ」("Cash Cow")となってきたWindows(緑の部分)とOffice(赤の部分)の事業だ。このふたつがポストPC時代の進行で——より具体的にはタブレットの普及で大きく減っていくと仮定した場合、ハードウェア1台につきマイクロソフトが手にしている売上額 約123ドル(Windowsは55ドル、Officeは68ドル、いずれも推定)を確保し続けるためには、いったいどういう方法があるか。
デディウは数字の面から、この問いに対する答えを次のように書いている。
もし、マイクロソフトが自社のソフトウェアをバンドルしたハードウェアを平均400ドル程度で販売できるとすれば、そして利益を20%程度確保できるとすれば、同社の利益は端末1台あたり80ドルまで回復する。これがSurface発表に踏み切った実際的な同機付けの大きな部分を占めている、というのが私の考えである。
このデディウの見解は、かなり異端な説であるかもしれない。
スティーブ・バルマーCEO自らが「SurfaceはWindowsタブレットの勢いに弾みをつけるための『呼び水』にしたい」と発言しているし(註3)、前述のガセーあたりはデディウの結論を「killer conclusion」と評価しつつも、やはりSurfaceは「HPやデルをはじめとするWindows陣営のOEM各社に覚醒を促す」ための新たなハッタリ("posture")ではないかと指摘している(「マイクロソフトにとっては、年間数億台ものハードウェアを自社でつくって売るよりも、OEMを使う方がよほど現実的」という考えには一定の説得力があると思う)(註4)
現時点でひとつ明らかなのは、この「ポストPC時代」の争いでマイクロソフトが「守勢に立たされている」という点だ。(次ページ「ハードウェアで儲けるアップルの存在」)
註1:初代iPhoneの発売から5年
初代「iPhone」発売から5年--ジョブズ氏による発表時の貴重な映像を振り返る - CNET Japan
註2:ゆっくりとしたペースでの成長
このまま「パソコン中心の時代」が長く続くようなら、マイクロソフトとしてもあたふた動く必要はない。しかし、むろん、現実はそれと正反対であることはいうまでもない。
パソコンがIT産業の脇役になる日 - ZDNet Japan
註3:スティーブ・バルマーCEOの発言
Steve Ballmer on Microsoft Surface: 'we want to prime the pump' - The Verge
最近、Bloomberg Westでも解説役で顔を見せているThe Verge主筆のジョシュア・トポルスキーが書いている。
註4:ジャン・ルイ・ガセーの考え
It's a devious thought, but it could be more realistic than the notion that Microsoft will produce something in the order of 100 million Surface tablets in 2013 in order to keep their dog in the fight.