コンサルティングの現場から

ITを体系的に理解する:ITの歴史は「文書の進化」 - (page 4)

宮本認 (ガートナー ジャパン)

2012-09-11 12:00


「はい。一つ目は、インターネットの世界、すなわち外の世界で使われた技術が、企業内で転用されるようになったってことでしょうか。最初はイントラネットという社内インターネットの導入に始まり、ポータル、検索、レコメンデーション、SNS、Wiki、チャット、ブログなど、外の環境で用いられていた環境を、職場でも出来るようにしようとする変化が起こっています」
「まぁねぇ、この辺になると、どうなの? って思ったりはし始めるのよね」
「あぁ、そうですよね。外の世界では、何億人って人たちがいますから、これだけいると、いろいろなコミュニケーションスタイルがあっても、それを使いこなす人たちが幾分かはいるのでしょうし、それが結構なボリュームになるでしょう。なんたって、何億もいますから。そして、弊社のような外国企業は、『普段の生活で使っているコミュニケーションは会社でも使えた方がいい』くらいの発想で、これらの技術を導入していますねぇ。外国人は結構これらを使っている感じです。ただ、日本人はなんか今一つ盛り上がっていないって感じですね」
「そうだろうよ。外向けには、メディアだから、試行錯誤を含めていろいろと取り組んでいくべきなんでしょうけど、内向きには会社のスタイルやカルチャーと一緒じゃないと、なかなかいい感じにはならないでしょうな」
「そうですねぇ。確かにおっしゃる通りなんですが、そこを僕は、こういう言い方で捉えています。副社長がおっしゃるように、インターネットというのはメディアの一つ。外国企業と日本企業では、コミュニケーションの捉え方が違っているのかもしれませんね。日本企業の場合には、社内コミュニケーションを良くするのは、部とか課とかのレベル感で、管理者とそのメンバーが共通理解を深めましょう、ってコンテキストで用いられることが多いと思うんですが、我々のような外国企業では、『コミュニケーション課』があって、そこが社内メディアとしてニュースなどを配信しているって感じですね。日本企業が『共同体志向』であるのに、外国企業が『産業志向』であると言ってもいいかもしれませんね」
「はいはい、で?」
「うっ!? ここ、一応、キメのつもりでしゃべってたんですけど……」
「で、次は?」
「それから、もう一つ。システムの提供形態が変わりつつあるってことなんです」
「提供形態?」
「そうです。副社長の会社のシステム、データセンターは通信会社のものを借りて、そこに会社が買ったサーバを置いて、本社や店舗に自分たちでネットワークを引いて、提供していますよね」
「そうだね」
「でも、インターネットの『性能』がどんどん良くなることによって、従来はメディアの一つとして使っていたものだけじゃなく、自分たちのシステムを置く代わりに、インターネットのどこかにあるものを自分たちのシステムとして使うことができるようになった。それが……」
「クラウドね」
「そう、そういう意味では画期的なんです。何か、似ているものに例えたいんですけど、どうも上手く例えられないんですねぇ、これ」
「いいよ、無理に例えないで」
「共同化という形態で、システムを共同で作るという発想は前からありましたし、ASPと言ったりSaaSと言ったりして、システムをインターネットを通じて提供するという発想は前からありましたが、クラウドというのが、この流れを決定的にしようとしているような気がします。いずれにしても、情報システムは『作る』という発想から『買う』ものへという変化は、少しずつ本格化しつつあるんでしょうし、従来自分のPCなどでいろいろとやっていたことが、インターネットの向こう側にあるようになると、天才プログラマーが作った便利なサービスなどが、瞬時に使えるといった、様々に便利なことが起きるのでしょう」
「じゃ、これは、調達方法の変化って考えるほうがいいのかしらん?」
「ビジネスの世界において、乱暴に言ってしまえばそうですね」

次回予告:進化の予測

 ここまで、宮本氏は副社長にITの二大潮流——『伝票・台帳・帳票の進化』と『文書の進化』の概観を伝えました。第4回のサマリーを再掲します。

第4回 サマリー

・文書のIT化は、ワープロからスタートし、PCの普及とネットワークの網羅によって、文書を共有するという新しいワークスタイルを生んだ
・メール、スケジュール管理、文書管理など、ホワイトカラーの仕事の仕方が、大きく変わることとなった
・こうした文書系の発展が、CRMなどの営業支援や、経営管理向けの分析支援などの発展中のシステムの萌芽となり、今なお発展を続けている
・文書系のシステムは、インターネットの登場によって、企業にとって、新たなマーケティング・メディアとして発展した
・さらに進化したインターネットは、その技術を企業内にも転用させ、自社内も普段の生活と同様の『環境』で働けるようにしているとともに、情報システムの提供ルートの一つとしても発展をしていった。それがクラウド


 となると、次回は「これからの進化の予測」となります。

 ところで皆さん、第2回「ITを体系的に理解するということ」で示した対話の構成を覚えていらっしゃいますか。この副社長シリーズは次の通り進行するとしています。

  • ITのこれまでの進化とこれからの予測
  • ITの存在意義
  • ITの構成要素
  • ITの活用方法

 次回は「ITのこれまでの進化とこれからの予測」の集大成です。来週火曜も是非ご覧ください。(ZDNet Japan編集部)

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宮本認(みやもとみとむ)

ガートナー ジャパン株式会社

コンサルティング部門マネージング・パートナー

大手外資系コンサルティングファーム、大手SIerを経て現職。16業種のNo1/No2企業に対するコンサルティング実績を持つ。ソリューションプロバイダの事業戦略、組織戦略、ソリューション開発戦略、営業戦略を担当。また、金融、流通業、製造業を中心にIT戦略、EA構築、プロジェクト管理力向上、アウトソーシング戦略プロジェクトの経験も多数持つ。

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