「今のスマートフォン市場をみていると、1990年代後半にE-Macinesから廉価なDOS-Vパソコンが出てきた頃のことを思い出す…」。そんな一節が含まれる記事(註1)が、Appleの決算発表を控えた米国時間21日にBloombergに掲載されていた。ここ数年急成長を続けてきたスマートフォン市場がいま踊り場に差し掛かっている、とする内容の記事である。
また先週にはWall Street Journal(WSJ)に「米国ではスマートフォンを新機種に買い換える人の割合が減ってきている」という話が掲載されていた(註2)。大手投資銀行で証券会社UBSから出ていたレポートを踏まえたものだが、それによると2012年に米国でスマートフォンをアップグレードした人の数は約6800万人に留まり、買い換えユーザーの割合は前年より9%強も少なかったという(ただし「減った」のは割合で、絶対数が減少したかどうかまでは分からない:グラフ)。
[WSJ]
Appleの4~6月期決算についてはすでに各所で報じられている通りで、「ついに利益が前年割れした」(前年同期に比べて2割以上の減少)というのがちょっとした話題になっていた。ただし、売り上げの伸び悩みも利益の減少も「ほぼすべて織り込み済み」といった感じで、逆にiPhoneの販売台数が予想を上回ったことと、そして決算発表の中で経営最高責任者(CEO)のTim Cook氏が「今年秋口から来年にかけて、たくさん新製品を投入する」旨の発言をしたことなどを受けて、Appleの株価も関連株も軒並み上昇などと伝えられてもいる。
ところで。
Appleの現行機種「iPhone 5」の売れ行きが、当初に期待されたほどの勢いでないことは周知の通り。今回の決算発表でも、iPhone全体の販売台数が3120万台(前年同期の2600万台から約20%増、アナリスト予想は2610万台)だったことは報告されていたが、機種別の内訳などは明らかにされていない。ただし、平均単価が582ドルまで下がった(2012年1~3月期は613ドル、2012年10~12月期は641ドル:註3)ことや、今年に入ってからは「iPhone 5の割合が50%台に低迷……発売から時間の経ったiPhone 4Sや同4がいまだに根強い人気」(註4)といった調査結果が報じられていたことを考え合わせると、しばらく前から目立ってきている「高額なスマートフォンはもう以前ほど売れなくなっているのでは?」という見方がいよいよ信憑性を増してきたとも思える。
また、今年の春先あたりにはAppleに代わる新たな盟主として「飛ぶ鳥を落とす勢い」に見えたSamsungでも、6月に「Galaxy S4の売れ行きが、期待したほどではない」とするアナリストレポートが出されたのを受けて、株価が約2割も急落していた。携帯通信会社の割引なしだと600ドル以上もするような高いスマートフォンは「もう飛ぶように売れたりしない」というのはAppleだけが直面する問題ではない。
スペックや性能の点で、正味の値段(携帯通信事業者が負担する端末代金割引金額抜きの売価)が600ドル以上する最上位機種と、下位機種との差が縮まったことで、市場が飽和にどんどん近づいている米国のような先進国市場――携帯電話ユーザーの約7割を占める長期契約者のうち、すでに7割程度がスマートフォンに切り替えている、というのがこのところの定説。
おそらく日本では似たようなものかもしれない――では「安くても、そこそこ使えるなら、そのほうがいい」という消費者が増えている。あるいは、お金に糸目はつけないから最新、最高の機種が欲しいという消費者はすでに欲しいものを手にしている、そしてすでに最上位機種を使っているユーザーの場合も、新しく出てきた機種に相当の違いがなければ、買い換えを先送りすることが増えている。同時に、依然として大きな伸びしろが見込める新興国市場では、そもそも高価な製品に手が出ない消費者も多い。
そうしたことで、Appleに対する「廉価版iPhoneの投入」の期待(もしくは投資家筋の圧力)がいよいよ高まっている、といった印象である。