本連載も残すところ、今回を含め、あと2回となった。
これまでの連載記事で、端末、アプリケーション、放送との関連やネットワークについていろいろと考えてきたが、通信事業者のビジネスに大きな影響を与える一つの因子について語っていなかった。今回は、それを取り上げてみたい。
企業の競争戦略を考えるにあたって、古典的なフレームワークがある。マイケルポーターのファイブフォース(5F)分析である。
多くの読者の方々が、5F分析についてご存知だと思うが、簡単に紹介しておこう。
対象とする産業を取り巻く外的環境が、当該産業の利益創出にどのように影響を与えるかについて簡潔にまとめたフレームワークである。
- 業界内の競争
- サプライヤーの価格交渉力
- 顧客の価格交渉力
- 新規参入の圧力
- 代替品の圧力
それぞれ1-5について、移動体通信事業を例に解説してみよう。
1.の業界内の競争については、言わずもがなであろう。要するに同業他社がたくさんいればいるほど、競争が激しく、その業界は利益の出にくい業界であるということができる。例えば、ドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクなどの間の競争、ということである。
2.のサプライヤーの価格交渉力については、サプライヤーの力が強ければ、当該業界よりもサプライヤーの方に利益が移ってしまうことを意味している。例えば、アップル(iPhoneを通信事業者に提供するサプライヤー)の価格交渉力が強いため、通信事業者からアップルへ利益が移転してしまうという意味である。
3.の顧客の価格交渉力とは、簡単に言えば顧客からの値引き要請の力、ということである。これは最終顧客のみならず、最終顧客への窓口としての販売チャネルの価格交渉力も含む。例えば、いわゆるケータイショップがどの通信事業者との契約を顧客に勧めるかについては、通信事業者からの販売奨励金の多寡に依存しており、当然それが大きい通信事業者を勧めることになる。これにより、通信事業者の利益が減少することになる。
5.の代替品については、移動体通信に変わる通信手段、といえばよいであろう。要するに固定回線を使った通信や、場合によっては手紙や直接会ってコミュニケーションを取ることも移動体通信を「代替」しているといえよう。
さて、一つ飛ばした、4.の「新規参入の圧力」とは移動体通信事業においてどのようなものだろうか?