連載第5回となった本稿では、ワークスタイル変革編の最後を飾る「ワークスタイル変革の本当の進め方」について論じたい。今回でワークスタイル変革に関する論述は一段落する。まず、これまで論じてきたポイントから整理していこう。
変革の目的は従業員価値を最適化すること
第2回で「従業員価値」を定義した。これは従業員が自社に与える多様な価値の集合体である。簡単に言えば、従業員が持つあらゆるパフォーマンスを最大限に引き出そうということだ。そのためのポイントは従業員の創造性を引き出すことと、コミュニケーションギャップを解消することであり、デジタルテクノロジの活躍の場は大きいはずであると説いた。
ここでもう一度念を押しておきたいのは、ワークスタイル変革の目的は売り上げを伸ばすことやコストを削減することではなく、あくまで従業員のための施策であるということである。この点は実行の段階ですり替わってしまうことがあるので注意してほしい。
本質は従業員の心理的負担の排除
そして第3回では、変革の本質は従業員の「心理的」負担を取り除くことであると論じた。ワークスタイル変革を進めていくと、どうしても「物理的」な負担軽減に傾倒しがちだ。確かに残業や出張のような物理的負担を削減することも大事であるが、そのために従業員に新たな心理的負担が生じては元も子もない。いつでもどこでも仕事ができる環境を与えることが、従業員にとって支援となるか負担となるかは一意ではないのだ。
この心理的負担軽減の切り札が、従業員に“あらゆる選択肢”を与えることである。“あらゆる”には、業務に関するITツールや場所、人事制度など幅広い意味を込めている。いつでもどこでも、どんなツールでも仕事が可能なだけではなく、それが逆に負担にならないように人事制度や労務管理の面で自由度がある状態が、従業員が抱える心理的負担を軽減させるのだ。簡単に言えば、自分の意思でメリハリの効いた仕事が出来る状態が、常に提供されていることが望ましい。
専門組織が必要--競争よりも共創を
さらに第4回では、現在の企業組織でありがちな「総務、IT、人事」といった区分けはワークスタイル変革の文脈においては不向きで、母体となる組織を選定して変革を専門とする組織を立ち上げるべきと論じた。そのトップはこれまでの連載で何度か登場したCINO(Chief INnovation Officer)であるべきだ。
また、ワークスタイル変革を実現するためには、外部の協力者(オフィス環境やIT環境のベンダー、コンサルティング会社など)が必要になるが、彼らを競わせてはいけないと補足した。各ベンダーの得意領域を組み合わせて共創を促した方が自社にとっての利益ははるかに多くなるはずだ。