北米クラウド市場の2015年を見る(前編) - (page 3)

鈴木 逸平

2015-02-05 07:00

低価格IaaSと高付加価値IaaS/PaaS/DBaaSに二極化

 低価格IaaS事業は究極的には無償提供の世界に突入する可能性がある--そんな予想をするアナリストも(米国では)増えてきているように感じます。今まで、AWSは50回近くの値下げを実施し、GCPもかなり戦略的な値下げを数回にわたって断行しています。その度にビッグ3のクラウドベンダーは価格面で追随し、その他のクラウドベンダーも競争力を維持するために価格を変更しています。

 最近になってそれがすこし落ち着いてきた、という話もありますが(2014年のAWS re:Inventでは目立った値下げが発表されなかった)ハードウェアコストが技術進歩でそのコストが下がっていく間は、クラウドサービスのコストも継続的に下がり続けることを想定すべきであり、各社も継続的な値下げによるユーザーへの還元を明確に表明しています。

 最近話題を集めているクラウドベンダーとして、Digital Oceanがよく話題に上がります。ニューヨークをベースとしたクラウドホスティング事業者が急激な成長を遂げ、アナリストの中では、米国で人気のクラウドサービス「RackSpace」の規模を越えたと分析しているものも出てきているくらいです。

 Digital Oceanは徹底的に開発者に着目し、いかに開発効率を向上させることができるか、という1点にだけ資源を集中しそれがユーザー数を伸ばしてきたと言われています。Dockerサポート、分散アプリケーションをクラスタ化できる管理ソフト「Mesos」サポートなど、最近話題のコンテナ技術、オーケストレーション技術を率先してサービスとして提供し、アプリケーション開発者のインフラ構築、運用に要する負担を可能な限り削減することを強みとしてます。

 強みを生かすという点では、GoGridの様に、Hadoopのソリューションを強化しているベンダーもあります。このほど、総合ITベンダーのDatapipeがGoGridを買収、Datapipeのクラウドホスティング事業にビッグデータソリューションを追加し、さらに付加価値の高いサービス事業を展開できるようにしました。

 これらは、クラウドビジネスが今後も2極化していくことを示唆しています。AWS/GCP/Azureの大手3社による、大規模なユーティリティ型のITサービスに相対し、他のベンダーは何らかの形で自らの特性を活かし、ユーザーの獲得やマージンの維持を強化する必要があります。日本国内のクラウドベンダーは、全て後者になります。

セキュリティとプライバシーの問題はクラウド導入を阻止できない

 クラウドの登場によるパラダイムシフトは、今やインターネット、EC、モバイル端末などの登場と同じ道をたどっていると考えます。いわゆる、初期導入の世代を超えて広くそのコンセプトは普及し、どの会社も本格的な導入を検討、もしくは計画、実践する時代に入っている--Gartnerのハイプサイクルでもクラウド関連技術が安定的な普及期に入っているようです。

 またクラウドは、従来のパラダイムシフトが登場した当時と同じように、常にセキュリティ、プライバシーの問題が付きまとうという点でも共通しています。

 過去において新しい技術やビジネスモデルが登場した時にも、セキュリティやプライバシーの問題が大きく取り上げられ、ミッションクリティカルなアプリケーションは絶対にインターネット上に載せることはできないという言説や、ECは一部のBtoC市場のみで普及するのみであるなど、厳しい評価を受けていた歴史を通ったことを覚えている方も多いでしょう。

 いずれのケースも、結局は導入によるメリットがリスクを越えた時点で、広く普及する結果になったわけですが、クラウドも現在多く語られている、セキュリティやプライバシー面でのリスクに関しても、かなり近い内にそのメリットと比較して極小化していくことになるのではと予測しています。

 むしろ、従来型のオンプレミスのIT環境を継続していくことへの問題点が逆にフォーカスされるようになり、従来型のIT環境にビジネスが依存し続けることのリスクやデメリット、例えば高い維持コスト、効率の悪さ、柔軟性のなさ、イノベーションの停滞、競争力の減少などが多く取り上げられるようになると見ています。

 後編は、さらに市場に切り込んで予測します。

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