データが集まると「引力」を持つ
質量の大きい天体が大きな引力を持つように、データもたくさん集まることで他のデータを引き寄せる力を持つ。これをデータの「グラビティ」と呼ぶ。トラフィックが集まり、データが集まり、そしてアプリが集まるところにビジネスが集中するのは想像に難くない。
あのAppleでさえ、地図というデータを自社のコンテンツにする際には大きな犠牲を払ったのである。Appleが地図ビジネスに参入した当時(2012年)から現在に至るまでGoogleが持つ地図データのグラビティは強大であり、他社の追随を許していない。
そしてデータグラビティはデータの量だけで決まるのではない。むしろ、量よりも「質」が重視されるだろう。筆者はデータの質を決める5つの要素を以下のように捉えている。
- 最適性(Optimized):データが扱いやすい形に最適化されていること
- オープン性(Open):世界中で取引可能であること
- 時刻の正確性(On Time):時系列が正確であること
- オンデマンド性(On Demand):必要なときに必要な分だけ入手できること
- 客観性(Objective):主観性が除かれた正確なデータであること
それぞれ“O”で始まることから、「データ品質の5O(ファイブオー)」としたい。全てを満たしている必要はないが、それぞれを高いレベルでそろえることでグラビティは増していく。先述したGoogleの地図サービスはこの5点を完全に網羅していることがおわかり頂けるだろう。
自社が「良品質かつ大量の(=グラビティの大きい)」データを保有することは、「強い」通貨を持つことと同義である。データ流通市場での存在感が増し、データがデータを誘引してさらにグラビティを増す好循環が生まれるであろう。
極端な例だが、欧州の複数の自動車会社が結託し、自動車製造に関するあらゆる情報を流通可能にしたらどうなるであろうか。何回見学してもどうせ自社ではマネできないトヨタの“カイゼン”よりも、データさえ出せば仲間に入れてもらえて、実利を得ることができる連合に世界中の自動車会社が集まってしまうことも十分にありうる。
トヨタがこの連合に加わることは難しいだろう。そしていつの日か、その連合が持つ集合知がトヨタのカイゼンを上回る日がやってくるかもしれない。これがデータグラビティの怖さである。もともと強いデータグラビティを持つ企業はそのデータを隠匿するのではなく、むしろ「強いうちに」市場に出して流通を支配するべきなのである。