元NetscapeのMarc Andreessenらが立ち上げたAndreessen Horowitz(a16z)というと、何年か前から「シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタル」の1つにのし上がったという印象があるが、そのa16zにBenedict Evansというアナリストがいる。
このEvans、元々は携帯通信分野の専門家で、Reutersあたりに面白いコラムを連載していたのを見込まれて、a16zで広告塔代わりを務めるようになった人物だったと思う。
そんなEvansが8月後半に「Ways to think about cars」というタイトルのコラムを自分のブログで公開していた。題名の示す通り、「今後大きな変化が見込まれる自動車分野で商機を見つけていくために、どういうとらえ方をすればいいか」といった内容の文章だ(想定読者は、a16zにお金を預ける投資家と、a16zにとっての商売ネタである起業家連中)。
- Ways to think about cars - Ben Evans
そういう筋合いの文章だから、これがある種の「ポジショントーク」であるのは間違いない。そして「世界中のいろんなものをソフトウェアが飲み込んでいく」("Why Software Is Eating The World")云々と言い放った親分の下で働くEvansのことだから、考察の方向性もその路線で一貫している――ある種のバイアスが感じられるが、それでも「ソフトウェア中心に世界を眺めてる人間の目に、いまの自動車分野がどう映っているか」といった点がうまく表れているようで、全体としてかなり興味深いものと感じられた。
この文章には、例えば高級車の市場で「Mercedes-Benz、BMW、Audi、Lexusなどを相手に、TeslaやAppleあたりがちまちまと競争しているうちはたいしたことはない。業界全体には大した影響はなく、潜在市場としての面白味も少ないのではないか」「それに対し、交通・運輸システム全体の最適化を狙っていると思われるGoogleやUberあたりのほうが、既存の自動車メーカーにとっては厄介な競合相手になるかもしれない」といった指摘がでている。
なお、Evansの調査によると高級車の市場は年間売上高が推定2200億ドル($220bn)、それに対してiPhoneの年間売上(実績)はすでに1465億ドル($146.5bn)だそうだ。
ほかにも「昨年サンフランシスコに移ってきて自分が購入した2009年製の中古車は、まるで2002年ごろに使っていたNokiaのフィーチャーフォンにそっくり――さまざまな機能が付加される以前の、携帯電話としては完成の域に達した製品を思わせる」とか、あるいはロボットカー実現の前提となる地図情報について「リアルな世界における(Googleの)『PageRank』に相当するもの」であり、自動車メーカーにとって「以前はCDプレーヤーと同様のアクセサリに過ぎなかったものが、いまでは自社の存亡を左右しかねない存在になりつつある」などといった一節もこの文章には含まれている。
なお、後者の点が7月にNokiaから地図関連事業HEREを買収することにした独自動車メーカー3社(BMW、Audi、Daimler)の動きを意識したものであるのは間違いない。
「AppleのCarPlayがどうした、GoogleのAndroid Autoがこうした」といった直接的な競合もいいが(それはそれで無視できないはずだが)、それよりもずっと面白そうな争点(=大きな商機)が別にある。価値の在処をめぐる異なる業界(プレーヤー)同士の「上手(うわて)の取り合い」のほうがさらに面白そう…そんなことを感じさせるEvansのこの文章、「こういうふうになる」といった予言めいた「答え」は出ていない――それだけ誠実とも思える---が、いろいろと考えていく上で参考になる示唆を含んだこの文章について、次回にもう少し詳しく内容を紹介することとしたい。