第二次世界大戦中に英国がナチスを倒すきっかけとなった暗号解読の天才Alan Turing氏といえば、今では誰もが知る人物だ。

Prof: Alan Turing Decoded ● 著者:Sir Dermot Turing ● 出版社:The History Press ● ISBN: 9781841656434 ● 20ポンド
最近公開されたハリウッド映画では、Turing氏が英国の諜報機関を支援しドイツ軍の暗号機Enigmaを解読した様子が描かれているが、フィクションの世界のTuring氏は、彼の家族や友人が知る本当の姿とは異なるという。
今回リリースされた天才数学者Turing氏のバイオグラフィ「Prof: Alan Turing Decoded」(「アラン・チューリングを解読する」の意)は、同氏の甥であるSir Dermot Turing氏が、近親者から情報を集めて執筆したものだ。そこには、Turing氏の本来の姿や、戦争後期に同氏が取り組んでいたことがより詳細に描かれている。また、Turing氏は1954年に早すぎる死を迎えているが、その死に関する内容を隠蔽したのではないかという陰謀説を否定する新たな真実についても書かれている。
本当のTuring氏の姿とは?
映画や新聞記事で描かれているTuring氏は、怒りっぽく他人を不快にするような人物として表現されることがある。
しかし、ブレッチリーパークの英国暗号解読センターにいた当時のTuring氏を知る人々は、彼にはついていけないところがあると思いつつも、Turing氏のことを明るく活発な人物だったと証言しているのだ。
著者であるDermot Turing氏は、「この本に取り組もうとした当初、私が持っていた叔父に対する印象は、ちょっと変わった近寄りがたい人物だということです。1人でいるのが好きで、少し扱いにくい人だと思っていました」と話す。
「もしそれが叔父に対する一般的なイメージなのだとしたら、それはちょっと違うと思います。叔父はもっと人間味のある人物だったのです」(Dermot Turing氏)
Turing氏は、慣れない場所では人付き合いが苦手で内気なタイプと見られていたかもしれないが、それが彼のすべてではなかったのだ。
「パーティーのような場所は確かに嫌っていたと思いますし、そういう場には全く似つかわしくない最悪の客だったでしょう。ただ、もっと技術的な分野で同じことに関心がある友人の間では、叔父は活発でユーモアもあり、一緒にいて楽しい社交的な人物だったのです」
Turing氏を直接知る人たちからの証言により、Dermot Turing氏は、ナチスの暗号を解読するために四六時中働いていた叔父Turing氏が、実は「パブでチェス遊びをするのが好きで、当時まだ誰も開発していなかったコンピュータ用チェスプログラムをどうやって考案しようかとブレッチリーパークの同僚と話していた人物」だったという事実を知り、その姿を描くに至ったのである。
Dermot Turing氏の取材によって明らかになったのは、Turing氏は「とてもつき合えそうにない」人物というよりも、「何かを説明し始めるとその話に皆がついていけなくなる」人だったと多くの人がこぼしていたことだ。人工知能(AI)と理論コンピュータサイエンスの父とされることもあるTuring氏のことだ、周りの人がこのように愚痴を言うのもわからないではない。
Turing氏の死にまつわる陰謀説と隠蔽
Turing氏がこの世を去ったのは、同氏がまだ41歳の時だった。死因はシアン化物中毒によるものだと公式には発表されている。