誰もがメーカーになれる“もの作りの民主化”に挑むITベンチャーが現れた。ドイツの製造業やIT企業などが推進する「インダストリー4.0」のような、もの作りプラットフォームを開発する東京・新宿に本社を置くカブクだ。AI(人工知能)やビックデータ分析などの技術者やインダストリアルデザイナーを率いる同社は、IoT時代のビジネスモデルを目指すIT企業である。
スマート工場に取り組むカブク
カブクが2013年9月から提供を開始したもの作りプラットフォームRinkakは、個人を含むメーカーが設計したハードウエア(商品)の3Dデータを元に、3Dプリンタやクラウドサービスを駆使して、生産から販売までを支援するもの。商品の特性や出荷地域などから最適な生産工場を選択する機能も備えるRinkakについて、稲田雅彦代表取締役最高経営責任者(CEO)は「ワンクリックで、誰でももの作りができるもの」と説明する。
Rinkakは、単にメーカーと生産工場を結び付けるマッチングサイトではなく、米Uberのようなシェアリングの考え方を採り入れている。簡単に言えば、カブク自身は自社工場を所有していないのに、ユーザーには世界各国に生産工場を持つ企業に見えるということ。
メーカーは、あたかも近くのタクシーをスマートフォンで呼び出すように、作りたいハードにマッチした生産工場を世界中から探し出せる。各工場の場所や設備、稼働状況、得意分野などのデータを持っているから可能になること。
生産工場にとって、Rinkakは設備の遊休期間を減らせるなどのメリットがあるという。メーカーが指定する材料などから原価を算出したりする見積もりや、ユーザーから受け取った3Dデータの検査・修正、請求書の発行、など生産効率を図るクラウドサービスも提供される。
一方、メーカーにとっての最大のメリットは、大きなコストをかけずにもの作りが実現できること。顧客が欲しい時にオンデマンド生産するので、在庫を持つ必要はない。金型もいらないという。カブクのマーケットプレイスを利用すれば、販売までも支援する。
たとえば、トヨタ自動車の未来のクルマと言われる電動三輪車i-ROADの外装パーツなどを、1人1人の顧客の要望に応じて作り上げて納品するカスタマイズサービスに活用されている。コンシューマ向けの例もある。
あるフィンランド人が開発した1つ数千円の名刺ケースを、日本に住む人が注文すれば、日本の工場で、米国に在住する人なら米国で、それぞれ生産する。加えて、ケースの材料によっても、製造可能な工場が選択される。少量なもの作りも最適化する分散ネットワークがあるからこそ、実現可能になったという。