内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」

ITベンダーとの新たな協調関係 - (page 2)

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2016-07-13 07:30

柔軟な契約形態

 イノベーション案件には、成果物を明確に定めた請負型の業務委託契約による分業は不向きです。そのため、さまざまな契約形態が模索されています。最も馴染みがあるであろう形態が、準委任契約による超上流支援ではないでしょうか。

 経済産業省が発表した「情報システム・モデル取引・契約書」においても、システム化の方向性、システム化計画、要件定義といった超上流工程では準委任型が推奨されています。アイデアソン/ハッカソン支援やプロトタイピング/PoC支援も、当初から成果物を特定することができないため、準委任型の契約が一般的となるでしょう。

 2011年に設立されたソニックガーデンは、「納品のない受託開発」というコンセプトで、オーダーメイドの受託開発でありながら、月額定額(サブスクリプション)でサービスを提供しています。

 また、顧客からの個別の要件に応じたシステムを構築した上で、そのシステムを利用して得られる収益の中から一定割合を報酬として受け取るレベニューシェア型の契約や、初期費用を負担せずに構築されたシステムの利用量に応じて、料金を支払う成果報酬型の契約なども試みられています。

事業運営形態

 デジタルイノベーションの領域では、ユーザー企業とITベンダー企業が垣根なく協業する機会が増えるでしょう。共同研究や共同開発の取り組みも活発化することが予想されます。欧米では、VolvoとMicrosoftが、3Dホログラムを活用した次世代自動車テクノロジの共同開発を発表しています。

 国内においても、富士通といすゞ自動車が、次世代自動車システムの共同研究に合意したと発表しています。NECソリューションイノベータと水耕栽培システムおよび肥料の製造・販売を手掛ける協和は、農業ハウス環境を制御するクラウドシステムを共同開発したとしています。

 ユーザー企業とITベンダーがコンソーシアムを設立する動きもあります。2015年7月には、国内の金融機関と国内外のFinTech企業が集い、金融サービスのオープン・イノベーションを加速することを目的としたコンソーシアムであるFinancial Innovation For Japan(FIFJ)が設立されました。

 また、2015年10月には、IoT・ビッグデータ・人工知能時代に対応し、企業・業種の枠を超えて産官学で利活用を促進する「IoT推進コンソーシアム」が設立されています。

 このような流れの延長線上には、ユーザー企業とITベンダーの資本提携や合弁会社の設立、ユーザー企業によるITベンダーの買収なども視野に入ってくるでしょう。大日本印刷と日本ユニシスは、国際ブランドデビット決済サービスの提供などで協業していますが、大日本印刷は、2012年に日本ユニシスの筆頭株主となっています。

 一般の事業会社が本業分野においてデジタル技術を活用したイノベーションを起こしていく時代において、ユーザー企業とITベンダーという旧来の区別は意味をなさなくなるのではないでしょうか。しかし、このような潮流は始まったばかりであり、成功モデルが確立しているわけではありません。

 また、ここで紹介した柔軟な契約形態や事業運営形態は、ITベンダー側から自発的に提案されるとは限りません。従来の収益モデルを捨てきれないSI企業も多く存在します。イノベーションを求める企業は、自ら能動的にITベンダーに働きかけ、新たな協調スキームを構築することが求められます。

内山 悟志
アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、大手ユーザー企業のIT戦略立案のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。最近の分析レポートに「2015年に注目すべき10のIT戦略テーマ― テクノロジの大転換の先を見据えて」「会議改革はなぜ進まないのか― 効率化の追求を超えて会議そのもの意義を再考する」などがある。

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