松岡功の一言もの申す

日本IBMの新・クラウド事業責任者は真価を発揮できるか

松岡功

2016-07-14 17:05

 日本IBMのクラウド事業責任者に、日本オラクル副社長としてクラウド事業を統括してきた三澤智光氏が就き、会見を行った。大胆な転身が注目される中、果たして真価を発揮できるか。

「クラウドプラットフォーム」を前面に押し出した意図

三澤智光氏
会見に臨む日本IBM取締役専務執行役員IBMクラウド事業本部長の三澤智光氏

 「これからはIBMクラウドプラットフォーム事業に注力していくので、ぜひ注目していただきたい」

 日本IBMの取締役専務執行役員IBMクラウド事業本部長に7月1日付けで就任した三澤氏は先頃、同社が開いたクラウド事業方針説明会でこう語った。同氏は今年3月に日本オラクルを退職。21年間在籍した同社ではデータベース事業やクラウド事業を牽引し、「ミスターオラクル」とも評された人物である。

 今回の会見は、そんな同氏が日本IBMのクラウド事業責任者に就いて初めて行われたものである。会見全体の内容については関連記事を参照いただくとして、ここでは筆者が興味深く感じた同氏の発言を2つ取り上げておきたい。

 まず1つは、冒頭で紹介した発言にある「クラウドプラットフォーム」という言葉である。三澤氏によると、「これまで分かれていたIaaSとPaaSの事業および組織を統合して、これからはIBMクラウドプラットフォームを前面に押し出す形にした」という。

 イメージとしてはPaaSにIaaSを取り込んだ形だが、PaaSではなくクラウドプラットフォームを打ち出すことで、IaaSとPaaSを融合したIBMならではのサービスを拡充していく意図があると感じた。これはまさしく差別化戦略である。

日本IBMの成長を担うクラウド事業の「ジャンプ」

 もう1つは、会見の質疑応答で、クラウドサービスで競合するAmazon Web Services(AWS)やマイクロソフトなどに対して勝算はあるか、と問われた際の同氏の回答である。

 「まず今後のクラウド事業の成長という観点で言うと、日本IBMはオンプレミスからの盤石な顧客基盤を保持している。クラウドへの移行も着々と進んでいるが、本格的な動きはまさしくこれからだ。その動きを促進するためにも、既存のIT環境をモダナイズしていく支援にもっと注力していく必要がある。私はそこに非常に大きなオポチュニティがあると確信している」

 さらに、同氏はこう続けた。

 「そうしたモダナイズやハイブリッドでミッションクリティカルなクラウド環境の構築は、競合するクラウドサービスベンダーには難しいのではないか。さらに今後、IBMはクラウドプラットフォーム上でコグニティブという新しい概念に基づくアプリケーションをどんどん展開し、顧客企業のイノベーションを促進していく。盤石な顧客基盤とユニークで柔軟なクラウドプラットフォーム、そしてコグニティブなアプリケーションを兼ね備えているIBMは、これからかなり優位に戦っていけるはずだ」

 こう語る三澤氏は、あたかも以前から日本IBMのクラウド事業責任者だったようにさえ感じた。だが、かつてのミスターオラクルは、とりわけデータベース事業の躍進で名を馳せたものの、クラウド事業での手腕は未知数だ。

 日本IBMの業績は2000年代に入って長らく低迷していたが、2013~2015年は増収基調となっており、今後の成長軌道に向けてクラウド事業への期待は一層高まっている。三澤氏にはおそらく「ホップ」や「ステップ」でなく「ジャンプ」が求められているだろう。果たして真価を発揮できるか。注目しておきたい。

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