決算発表が四半期ごとに実施されるようになって久しいが、IT企業の発表内容を見ると、日本企業は米国企業に比べて注力事業の説明が淡泊な気がする。もう少し押し出してもいいのではないか。
日米IT企業における決算発表の内容はどこが違うか
企業の決算発表は、いうまでもなくそれぞれの企業の経営状態を知らせる重要な機会である。かつては年に2回だった発表も、上場企業においては四半期ごとに実施されるようになり、各企業の業績動向が一段と見えるようになった。
最近の決算発表は、各企業の努力もあり、以前に比べて見やすい図表を駆使した分かりやすいものになってきたと感じる。ただ、IT企業の発表内容を見ると、日本企業は米国企業に比べて注力している事業の説明が淡泊な気がしてならない。
あくまで筆者の印象ではあるが、IBMやMicrosoft、Oracleといった米国のIT企業による最近の決算発表を見ると、いずれも注力しているクラウド事業の急成長ぶりを強調している。もちろん、それを示す根拠となる数字が出せるからだが、実際のところ、いずれの企業でもクラウド事業はまだ業績全体の一部に過ぎない。にもかかわらず、企業全体として勢いがある印象を受ける。
さらにクラウド事業だけでなく、IBMならば「コグニティブシステム」、Microsoftならば「Surface」、Oracleならば「エンジニアドシステム」といったように、各社固有の注力商品も決算発表で触れられていることが少なくない。
それに対し、日本企業が決算発表で注力事業について説明することはほとんどない。もちろん、決算発表は上場企業として開示すべき内容を報告し説明するためのものだが、たとえ全体の業績が振るわなくても、成長のドライバーとなる注力事業を常に取り上げ、その成長ぶりを数字で示していけるようにすべきではないかと考える。
日本企業は決算発表に“プレゼンテーション”の意識を

決算発表会見に臨む富士通 取締役執行役員専務兼最高財務責任者(CFO)の塚野英博氏
実は、そうした思いで、先ごろ開かれた富士通の2016年度第1四半期(2016年4~6月)決算発表の会見で、筆者は同社が注力事業に掲げているクラウド事業、さらにはクラウドも含めた「デジタルビジネス・プラットフォーム」と同社が呼ぶ「MetaArc」に関する事業における業績の推移について聞いてみた。すると、同社取締役執行役員専務兼最高財務責任者(CFO)の塚野英博氏は次のように答えた。
「クラウド事業の売上高については、第1四半期の実績で約600億円、2016年度通期では3500億円を見込んでいる。MetaArcについてはまだ大きな意味で事業の開発・導入段階なので、数字として見えてきている状況ではない」
クラウド事業の売上高については、同社はかねて2015年度で前年度比21%増の2900億円、2016年度にはこれを同21%増の3500億円に引き上げることを明言しているので、目標に変わりはないようだ。ただ、この数字にはプライベートクラウド構築も含まれており、サブスクリプションベースの「サービス」がどれくらいの割合かは明らかにしていない。したがって、競合他社と比較しづらいところがある。
とはいえ、この事業規模は、日本のクラウドベンダーとして間違いなくトップクラスである。今後はぜひサービスとしての規模も明確にして決算発表でむしろ強調し、グローバルな有力ベンダーと渡り合う姿勢を見せてもらいたいものである。
さらに、筆者がMetaArcを挙げたのは、これがクラウドやモバイル、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)などの最先端技術と、同社のシステムエンジニアリングの知見やノウハウを融合したデジタルビジネスプラットフォームとして、同社の最大の強みになると思うからである。
もちろん、勢いのある数字が示せないならば、公表する意味はないかもしれないが、富士通の将来を考えれば、間違いなく屋台骨の事業になるはずだ。IBMが決算発表でもコグニティブシステムに注力することを強調しているように、富士通も今後、デジタルビジネス・プラットフォームをもっと前面に出してはどうか。
日本企業も米国企業のように、決算発表を単なる報告にとどめず、もう少し“プレゼンテーション”の意識を持ってはどうかと考えるが、いかがだろうか。