ITは「ひみつ道具」の夢を見る

技術の進化は「物語」を変えた--ガジェットがストーリーを支配する - (page 3)

稲田豊史 2017年02月25日 07時00分

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 そんななか、登場したことによってもっとも「物語」に大きく影響を与えた三大小道具といえば、冒頭で挙げた携帯電話、PC、SNSではないだろうか。

 携帯電話、およびそこに搭載されるメール機能は、「物語」から待ち合わせのもどかしさ(というドラマ)を消滅させてしまった。自分の作品に決して携帯電話やPCを登場させない小説家がいる、という話も納得がいく。

 それを象徴しているのが、フランス映画『アメリ』だ。本作は夢心地なファンタジー世界観を崩さないよう、作中に一切、携帯電話とインターネットが登場しない。筆者は、本作が2001年の作品にもかかわらず、わざわざ劇中の時代設定をたった4年前の「1997年」としている理由は、そこにあると見る。


アメリ」 Amazonから引用

 思い起こしてほしい。1997年から2001年にかけての4年間は、携帯電話とインターネットの個人所有が世界的にも爆発的に伸びた時期である。パリに住む22歳の女性・アメリが2001年にケータイとネットをまったく使っていないのは不自然だが、1997年ならギリギリ自然――と製作者なりに整合性を取っているのだ(物語のなかの集合住宅:第1回『アメリ』――1997年のアパルトマン)

 スマホ登場前のネットツールといえば、ほぼPC一択だが、PCの登場も「物語」を作り変えた。中でもパソコン通信や電子メールの普及は、「性別・年齢・容姿不明の人物と、テキストオンリーのコミュニケーションが成立する」という新しい設定を誕生させるに至る。

 1996年の日本映画『(ハル)』はパソコン通信によって、1998年のアメリカ映画『ユー・ガット・メール』はメールのやり取りによって、互いに顔も声もわからない男女が親密になっていく話である。ちなみに『ユー・ガット・メール』は1940年に製作された『桃色の店』という映画のリメイクだが、『桃色の店』ではメールではなく手紙による文通だった。

 PCと言えばオフィスの風景と同化しているが、1人1台のPCがデフォルトになったのは、たかだかここ20年以内のこと。今では社内LANの発達により、チャットで隣の部署のカワイコちゃんにちょっかいを出すことも可能である。昔のロマンス映画(死語?)にあったような、「想いを寄せる課長の机の上に、折りたたんだメモをぽとりと落として愛を告白」――などという昭和の遺物的な脚本は、もはや存在しない。

 2010年代以降は、もっぱらSNSの登場が「物語」を変容させた。SNSがストーリー展開の重要な鍵になっていることも少なくないからだ。『モテキ』(2011)は主人公とヒロインの出会いやコミュニケーションにおいてTwitterが大きな役割を果たしていたし、『リップ・ヴァン・ウィンクルの花嫁』(2016)は劇中で登場するSNSなくしては物語が成立しなかった。直木賞受賞作の映画化作品『何者』(2016)の場合、Twitterを触ったこともない世代にとっては、作劇の基本設定すら理解できないだろう。

 ところで、昨今とても気になることがある。最新のハリウッド映画で「PCをハッキングした際に、ウインドウが次々開く画面」とか「テキストが高速スクロールで流れていく軍事施設内のモニタ」などを描写する際に鳴る、「ピピピピピ…」「チチチチチ……」などという効果音。あの薄ら寒さったら、ない。

 今どき、画面に文字が表示される際にあんな効果音が鳴るUIが存在するのだろうか。いったい何十年前の「コンピュータ表現」なんだ、これは。失笑モノである。

 「サイバー空間」の視覚表現があまりにも古臭い映画や、劇中に登場するオリジナルの検索ポータルやメーラー、SNSのUIが何世代も前のセンスなのも、同様にトホホである。実は昨今の「若者の洋画離れ」の原因は、こんなところにあるのではないか? と思わせてくれるのに充分の、背筋が凍るダサさである。

 「GPS」が画面に登場しただけで「すげー」と言われる時代はとうに過ぎたのだ――ということを、一部映画製作者の面々は理解する必要がありそうだ。というわけで、謹んで以下のリンクを貼り、本稿の前編を締めたい。

稲田豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。
著書に『ドラがたり――のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。
手がけた書籍は『ヤンキー経済消費の主役・新保守層の正体』(原田曜平・著/幻冬舎)構成、『パリピ経済パーティーピープルが市場を動かす』(原田曜平・著/新潮社)構成、評論誌『PLANETSVol.9』(第二次惑星開発委員会)共同編集、『あまちゃんメモリーズ』(文芸春秋)共同編集、『ヤンキーマンガガイドブック』(DUBOOKS)企画・編集、『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)編集など。
「サイゾー」「SPA!」ほかで執筆中。(詳細

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