展望2020年のIT企業

サイボウズの青野社長の「複業のススメ」

田中克己

2017-03-27 07:30

 サイボウズの青野慶久社長は社員に“複業”を薦める。給与不足を補うイメージの副業ではなく、複数の企業で働く複業のこと。オープンイノベーションや新ビジネスの創出などにつながると期待される複業を、青野社長は多くの経営者らにも採用を働きかけている。

退職者増加に危機感募らせる

 サイボウズが複業を認めた背景に、退職者の増加があった。毎年の離職率は10%から20%強だったが、青野氏が社長に就任した2005年は28%に上昇した。

 「IT業界なので、引き抜きもあるので、いいのかなあと思っていたが、さすがに28%はまずい」と感じた青野社長は、対策を練る。だが、辞める理由を調べたら、人によって異なる。たとえば、給与の不満なら上げるとかの対策を打てるが、1つひとつ異なるすべての不満に応えるのは難しい。

 青野社長の結論は、多様性を重視する「100人いれば、100通りの人事制度にすること」。同じルールに則った人材ばかりを採用していたら、同じ顔の金太郎飴になってしまう。終身雇用は終わり、働く場所や時間を選択する時代になりつつある。そこで、約10年前に働き方を改める。さらに約3年前には、複業を認める就業規則に変更する。「パソコンなどの会社資産を使う場合以外、申請の必要はない」(青野社長)。

 目下のところ、技術誌への寄稿、ユーチューバー、小説家、農業など自営業的なものが多くを占めているという。

 複数の企業で働く複業社員も2人以上現れる。農業も手がける社員は、ITの知識を生かして、営業の案件管理から出荷までのワークフローを開発するなど、農業の生産性向上にも貢献しているという。サイボウズの開発ツールをベースに開発した同ワークフローは、結果的にサイボウズの農業市場の開拓にもつながったという。

 もう1人は、マーケティングの責任者だ。青野社長は50歳を過ぎた同氏のキャリアを考えて、複業を薦めたところ、「私は当社に必要のない人材なのか」と問いただされた。「いろんな経験やスキルを積むことなどと説いたところ、元々、弱者の支援に関心があったことに気がついた彼は、福祉系企業の顧問に就いた」という。異業種の知識が掛け合わさって、いずれ福祉などの市場開拓を期待できるのかもしれない。

 もちろん、社員個人のメリットもある。1社では得られない知見やスキル、そして人脈を得られること。自分自身のモチベーションも上げられるだろう。ただし、複業社員は今、働いているところを社内に伝える。例えば、スケジュールを公開し、「当社の仕事をやっていないのではと、多くの社員に疑問を抱かれることを避ける」(青野社長)。公明正大にするということだ。

 一方、会社のメリットはオープンイノベーションにある。社外の知識を取り込めるし、異能な人材を集められる。農業もする社員は、サイボウズに複業制度があったから転職してきたそうだ。離職率は年々下がり、2016年は5%弱になったという。

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