フィールドイノベーターが中心的な役割か
今、多くのIT企業のSI事業がリスク管理になっている。利益率を高めるための赤字プロジェクトの撲滅などである。この撲滅運動の行き過ぎが新しいことへの挑戦を難しくする。だが、デジタル化による新しいビジネスの創出に応えられないIT企業に、ユーザーは声をかけなくなる。
IT企業に残された道は、人材派遣になるのか。2017年5月に参議院で可決・成立した改正民法によって、システム開発契約における瑕疵担保責任が大きく影響すると言われている。あるITコンサルタントによると、請負契約で開発したシステムが納品後に不具合があったら、無償で修正する期間を個別契約で定めなければ、1年以内となっていたが、改正後は「不具合がある事実を知ったときから1年間になる」という。システムを使い続ける10年でも、20年でも無償で修正を求められる可能性があるということ。
ユーザーに10倍の金額を要求する手もあるが、ユーザーは価値を認めるだろうか。折り合いがつかなければ、開発を請け負わないことになるが、それではユーザーも、IT企業も困ってしまう。「人月ビジネスに逆戻りするしかない」と嘆くIT企業の経営者もいる。
打開策の1つが、デジタルイノベーターなのかもしれない。富士通は2007年、ユーザー企業の課題解決や業務改革にあたる部長クラスの業務経験豊かな社員をフィールドイノベーターと呼ぶ職種に位置づけた。黒川博昭社長(当時)が構想したもので、宮田常務はその推進役の1人だった。フィールドイノベーターは、ユーザーに「こうしたらどうか」と基本的に無償で提案する。
モノ売りではないので、ユーザーに本音で言える。事実、数々の実績を残しており、今も約350人がフィールドイノベーターを名乗っている。その彼らをプロデューサにし、若手の業種SEから選抜されるデベロッパらをリードする。そんなことも考えられる。
田中達也社長は「SIの新たな形態を創り出し、グローバル展開する」と、2017年6月の経営方針説明会で語り、デジタル時代の新しいビジネスモデルを創出する人材育成を示唆した。SIビジネスを取り巻く環境が大きく変化する中で、富士通がデジタルイノベータの育成をやり遂げられるかに注目している。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。