「繊維からクラウドまで提供するウエアラブルIoT企業」。こう標榜するのは、京都に本社を構えるミツフジだ。約60年前、西陣帯工場としてスタートした同社は繊維需要の変化に対応し、ラッセルレース、銀メッキ繊維などへと主力事業をシフトしてきた。
現在は、単に繊維製品を販売するのではなく、銀メッキ繊維の電導性を生かしたIoTビジネスへと事業モデルを進化させた。スポーツや介護、建設などの現場で着る服に、各種センサなどを埋め込み、心拍など生体情報のデータを収集、分析するウエアラブルIoT企業に変貌した同社の次の一手を探る。
銀メッキ繊維に活路を求めるミツフジ
1980年代から1990年代にかけて、ミツフジを取り巻く経営環境は厳しさを増した。多くの繊維会社が次々に工場を中国などに移転させる。「空洞化する中で、社長の父はどう生き残るのか悩んでいた」と、三寺社長は当時を振り返る。そんな折、米国企業が約60年前に開発した銀メッキに着目し、そこに活路を見出そうとした。
まずは1992年に米国の銀メッキ製造会社と販売契約を結び、銀メッキ繊維と応用商品の開発に取り組む。この間に、同繊維を使ったニオイ効果のある抗菌防止靴下や電磁波防止のOAエプロンなどの商品が生まれる。だが、そうした商品向け繊維の需要が減少していく中で、「ある企業から大量に糸が欲しいと言われた。『何に使うのか』と聞いたところ、服に使うとのことだった」(三寺社長)。スポーツウエアや介護服、作業服などに銀メッキ繊維を使うニーズがあることが分かったのだ。
そこで、素材としての開発を進める一方、健康管理などに生かす方法を考えた。具体的には、スポーツウエアなどの服に電極やセンサ、トランスミッターなどを取り付けて、トランスミッターを経由してクラウドに生体情報のデータを送り、分析、管理する仕組み。これらを実現する繊維からクラウドサービスなど商品やツールを一通りそろえて提供する。
例えば、建設工事現場の作業員の心電変化などから熱中症を予兆し、作業員のスマホに通知したりする。実証実験は建設会社のほか、介護施設やスポーツ選手の健康管理などで始まった。スマートバンドでは難しいと言われた筋肉など体の動きをとらえる実験も可能だという。こうした実証実験を通じて、建設工事現場からは着心地や安全・衛生面に必要なデータ、介護現場からは気持ち良く過ごせる違和感のないもの、スポーツ現場からは選手のコンデション、などといった顧客ニーズとノウハウを蓄積してきた。
今年1月に米ラスベガスで開催された情報家電見本市CES2018に出展。海外市場開拓にも力を入れるミツフジ